DJ総合

2023年11月 7日 (火)

SSDAC128 and デジタルRIAAイコライザ デュアル基板(基板頒布あり)

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前回の記事で、SSDAC128_I2S基板に装着するデジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板を発表しました。

これは従来のSSDAC128_I2S基板のFPGA回路を、デジタルRIAAフォノイコライザに書き換えることで実現しました。
従来通りAmaneroCombo384からのUSB入力で信号再生可能ですが、AmaneroCombo384の代わりにデジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板DPEQ000を装着することにより、レコードプレイヤーから直接入力ができ、リアルタイムでの再生が可能です。
ただし、デジタルRIAAフォノイコライザとして使用するためにFPGAの書き換えが必要で、再びSSDACとして使用するには再度FPGAをSSDACに書き換える必要がありました。

今回は、SSDAC128_I2S基板で使用するFPGAを、10M08SCE144C8Gから10M08SAE144C8Gに変更することで、SSDACとデジタルRIAAフォノイコライザ回路の両方を実装し、電源投入時のDIPスイッチの設定で選択できるようにしました。生基板は従来と共通のSSDAC128_I2S基板です。

レコードファンにとってはかなり便利になったと思います。
また、デジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板DPEQ000にはカートリッジ出力をプリアンプで増幅した信号がRCAで出力されているので、レコードの生音をパソコンでリッピングするときに便利で、レコードの生音を使ったソフトウェアフォノイコライザの検証などに役立ちます。

この記事の下の方にすべての資料とFPGAのオブジェクトファイルを公開します。自力で製作したい方は次の手順で行ってください。

①回路を組む
回路図を参照して、回路を組んでください。
ユニバーサル基板でもできると思いますが、回路規模を考えると、生基板を購入されることをお勧めします。
FPGAは10M08SAE144C8Gです。従来の10M08SCE144C8Gではないので購入時に間違えないように注意してください。
SSDAC128_I2S基板は、従来と比較してジャンパ配線が一箇所、LEDと抵抗をそれぞれ3個ずつ追加となります。資料を参照してジャンパ線と部品の追加を行ってください。

②FPGAにオブジェクトファイルを書き込む

PCと製作した基板をダウンロードケーブル(USB-Blaster)で接続し、FPGAにSSDACとRIAAイコライザのデュアルブートが可能なオブジェクトファイル(SS_RIAA.pof)を書き込みます。このオブジェクトファイルはデュアル・コンフィギュレーションのオブジェクトなので、QuartusPrime Programmerで図1のように、CFM0,CFM1の2つにチェックを入れて書き込みます。


Ssdac_riaa_write
図1.QuartusPrime Programmerによる書き込み
     CFM0とCFM1にチェックを入れて書き込みます。


これで、電源投入時のDIP SWの設定によってSSDACとRIAAフォノイコライザが選択できる基板の完成です(^-^)

詳しい仕様は、以下の資料をご参照ください。

製作マニュアル(SSDAC128_I2SDual)
図表(SSDAC128_I2SDual)
取扱説明書(SSDAC128_I2SDual)
電気学会論文

製作マニュアル(DPEQ000)
図表(DPEQ000)
取扱説明書(DPEQ000Dual)

FPGAオブジェクトファイル(10M08SAE144C8G用)


次の5種類を頒布します。(すべて税、送料込み)

①全部品実装基板セット(SSDAC128_I2SDualとDPEQ000のセット) 77000円
・全部品を実装し、動作確認済みの基板セットです。
・AK4490にはAK4490REQを使用しています。
・Amanero COMBO384は含まれません。
・すべて手実装です。
・DPEQ000のOPAMPはNJM4556AD。
・納期:2週間程度(受注生産)

②全部品実装基板(SSDAC128_I2SDualのみ) 72000円
・全部品を実装し、動作確認済みの基板です。
・すべて手実装です。
・納期:1週間~10日程度(受注生産)

③書き込み済みFPGA実装基板SSDAC128_I2SDual 27000円
・書き込み済みFPGAのみ搭載した基板です。
・すべて手実装です。

・納期:1週間程度(受注生産)

④全部品実装基板セット(動作確認済み)、AmaneroCOMBO384、電源トランスセット 98000円
・全部品を実装したSSDAC128_I2S基板、DPEQ000基板およびAmaneroと電源トランスのセットです。
・すべて手実装です。
・AC電源ケーブルおよび電源スイッチ、ヒューズ等はご用意ください。
・納期:2~3週間程度(受注生産)

⑤生基板セット 4700円
・AK4490EQおよびAK4490REQに対応したSSDAC128_I2SとDPEQ000の生基板セットです。
・生基板のみの販売です。FPGA用pofファイルをダウンロードしてお使いいただけます。
・納期:3~5日程度


購入ご希望の方は表題に「SSDAC_RIAA基板頒布希望」とお書きのうえ、
dj_higo_officialアットhigon.sakura.ne.jp(アットを@に換えて)までメールにて
お申し込みください。
※ご希望のセット番号と、お名前、ご住所、電話番号をお書きください。
折り返し、代金振込先等のご案内をお送りします。

製造・頒布はSLDJ合同会社が行います。

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2023年10月28日 (土)

デジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板(基板頒布あり)

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写真1.デジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板を搭載したSSDAC128_I2S基板
128倍スーパーサンプリングD/Aコンバータ基板SSDAC128_I2Sに対し、サブ基板を追加して、FPGAを書き換えることでデジタルRIAAフォノイコライザを構成しました。


【参考記事】
RIAAフォノイコライザをIIRデジタルフィルタで実装する ①準備編
RIAAフォノイコライザをIIRデジタルフィルタで実装する ②係数計算編
RIAAフォノイコライザをIIRデジタルフィルタで実装する ③シミュレーション編
RIAAフォノイコライザをIIRデジタルフィルタで実装する ④実装・評価編
RIAAフォノイコライザをIIRデジタルフィルタで実装する ⑤Octaveによる位相検証


以前、FPGAによるデジタル回路でRIAAフォノイコライザを構成する検討しましたが、今回はその総集編として、SSDAC128_I2S基板にサブ基板を追加する形でデジタルRIAAフォノイコライザを製作しました。ADCスペックは96kHzサンプリング24bitです。

もともと、デジタルフィルタでフォノイコライザを製作することにはあまり意味がないと考えていました。
というのは、レコードをよい音で聞こうと思ったら、まじめに作ったCR型のフォノイコライザを通して、アナログアンプで増幅して聴けばよいと考えていたからです。
それなら、なぜデジタルRIAAイコライザを作ったのかというと、デジタルフィルタとFPGA(VHDL)の練習をするのにとてもよい課題だと思われたからです。
当時バラックでデジタルRIAAイコライザを組み立てて、動作を確認してデータをとり満足したので、もう作る必要はないと考えていましたが、SSDAC基板が完成した今、USB入力インタフェイスであるAmaneroの代わりに、I2Sを出すことのできる小基板を載せれば、SSDAC基板は汎用のオーディオDSP基板として使えるということに気がつき、その応用例としてデジタルRIAAフォノイコライザを作ってみました。

実際に作って音を聴いてみると、思いのほか音がよいことに驚きました。
アナログでフォノイコライザを組む際には、イコライザ回路に使うコンデンサに何を選ぶかに悩まされ、ここでお財布とも相談する必要があったりします。
その点デジタルフォノイコライザでは、コンデンサはカップリングとパスコンや平滑コンしかないのであまり悩む必要はなく、主に音質に影響を与える部品はプリアンプのOPAMPにほぼ限られ、ソケットにしておけば後から変更も可能です。
今回はプリアンプの出力をRCAで取り出せるようにしたので、パソコンにつないでレコードの生音をリッピングして、パソコンのソフトでイコライザの検討をするなど、いろいろな応用ができます。

今回製作したサブ基板を写真2に示します。

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写真2.デジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板

このサブ基板を、SSDAC128_I2S基板のAmaneroの代りに挿し、FPGAの回路をデジタルRIAA回路に書き換えることで、デジタルRIAAイコライザ基板として使えるようになります。

主な特徴は次の通り

・ADCデバイスにPCM1808(96kHz24bit)を使用
・プリアンプゲインは0~470倍可変(ジャンパピンにより0~47倍も可)
・プリアンプ出力RCA端子搭載により、パソコンなどの外部機器へダイレクト出力が可能
・Amaneroを使用して、ダイレクトリッピングした音楽信号をパソコンから入力してRIAAイコライジング出力が可能
・プリアンプ用のOPAMPは2回路入りDIP8PINを採用し、ソケットとすることで換装可能
・出力はDAC8820、AK4490、PCM5102のすべてから選択可能
※FPGAをデジタルRIAAに書き換えると、スーパーサンプリングは機能しません。NOSまたは各DACデバイスのオーバーサンプリング処理となります。

詳しい仕様は、この記事冒頭にリンクした過去記事と、下にリンクした資料をご参照ください。

製作マニュアル
図表
取扱説明書
FPGAオブジェクトファイル(10M08SCE144C8G用)

次の2種類を頒布します。(すべて税、送料込み)

①全部品実装基板(動作確認済み)5800円
・すべて手実装です。
・OPAMPはNJM4556AD
・納期:2週間程度(受注生産)

②生基板 1600円
・生基板のみの販売です。

※本基板を使用するには、別途SSDAC128_I2S基板が必要です。

購入ご希望の方は表題に「DPEQ基板頒布希望」とお書きのうえ、
dj_higo_officialアットhigon.sakura.ne.jp(アットを@に換えて)までメールにて
お申し込みください。
※ご希望のセット番号と、お名前、ご住所、電話番号をお書きください。
折り返し、代金振込先等のご案内をお送りします。

製造・頒布はSLDJ合同会社が行います。


ぜひお試しください!

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2023年10月16日 (月)

各種SSDAC基板 頒布再開のお知らせ

FPGA入手難につき、各種SSDAC基板の頒布を中止しておりましたが、

このたびようやくFPGAが入手できましたので、頒布を再開いたします。

引き続きよろしくお願いします。

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2023年6月28日 (水)

4.5㎝スコーカーのBTL電流駆動(ラズパイPico SDプレーヤー)

Pico1

写真1.戦利品のSONY4.5㎝スコーカーとメディアプレイヤー
4.5㎝スコーカーはamazon段ボールに穴を開けたバッフルにはめ込み、アンプはオペアンプAD8534を使ったBTL電流駆動。


先日、手作りアンプの会のイベントで、SONY製4.5㎝スコーカーを4個100円でゲットしたので、何か使い道はないかと思い、SDプレーヤーを試作してみた。

このスコーカーは特性も型番もわからないのでネットで調べると、販売しているサイトが見つかった。なんと1個200ドル(@_@;
販売サイトは見つけたものの、結局特性はよくわからないまま。

とりあえず仕事で着手していたメディアプレーヤーにつないで音を出してみたところ、案外元気に鳴る。ただ、スコーカーということなので、帯域はおそらく300~5kHzくらいじゃないかと思われた。
ぼくはマルチウェイはあまりやる気がしないので、これを単発で鳴らす実験をすることにした。
帯域の狭いスピーカーを無理に駆動するなら電流駆動がおもしろそうだ。それならばそのついでにBTLもやってみることにした。
遠い昔(30年ほど前)、メーカーでのMOドライブ開発のときにアクチュエータドライバに使っていたHA13490というICがまさにBTL電流駆動のドライバで、こんな駆動方式はオーディオアンプでは見ることはないが、アクチュエータ駆動ではよく出てくる。その当時、「これでスピーカーを鳴らしたらどんな音がするんだろう?」と思ったが、30年経ったいま、それをやってみようというわけだ。

今回製作した回路は、SDプレイヤー部はラズベリーパイPicoにSDホルダーとタクトスイッチがついているだけのきわめてシンプルなもので、アナログ出力は122kHzのPWMで出力されるのでDACすらついていない。ソフトの起動時にポップノイズが出るので、それをミュートするためにオペアンプの電源をPicoからON/OFFできるようにしている。出力はPicoのPWM出力をオペアンプで受けてローパスをかけ、出力VRを経て一段バッファし、ヘッドホン出力のあとにBTL電流駆動パワーアンプがついている。使用したオペアンプはAD8534という4回路入りフルスイングオペアンプで、出力電流が最大250mAとれるので、Liion電池一本でスピーカーを駆動する。同じ内容の2回路のオペアンプAD8532は秋月で入手できる。
ソフトはGithubからもらってきたMicropythonで書かれたもの。このソフトをベースにボタン操作部分を追加した。対応フォーマットは44.1kHz16bitのWAVファイル。

実際に音楽を聴いてみると、3.7Vのリチウムイオン電池1本でけっこうよく鳴る。部屋でBGM用に使うには十分だ。消費電流はステレオで最大150mAほど。

せっかくなので、アンプを電流駆動にした場合と電圧駆動の場合の音圧特性をとってみた。測定条件はスピーカー軸上正面10㎝、測定系はminiDSP UMIK-1、およびソフトにREWを使用した。測定結果を図1に示す。

Capture

図1.音圧特性(赤:電流駆動 緑:電圧駆動


赤で示した電流駆動では、274Hzに大きなピークが出ていて、これはスピーカーのf0だと推定できる。電流駆動によってf0が大きく増強されている。また高域もインピーダンス上昇に伴って音圧が徐々に上昇している。
電圧駆動では低音がまったく出ない印象で、やっぱりスコーカー単発では無理があるように感じられるが、電流駆動することで低域が持ち上がり、どうにかこうにか聴けるレベルの帯域感になったように感じられる。

そういうわけで、30年越しのBTL電流駆動実験ができて満足です(^-^)

 

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2023年4月24日 (月)

各種SSDACの信号ひずみ率 THD+N の比較(20230506データ追加)

【20230506】SS128基板のPCM5102出力および市販DAC(AK4396、PCM2704、ES9018K2M)のデータを追加しました。

デジタル音楽データをスプライン関数で補間するSSDACについて、実際に波形がどのように補間されているかはこれまで波形を紹介してきたが、今回は1kHzの正弦波信号を再生した場合の全高調波歪率+雑音(THD+N)がどうなっているかを紹介する。
比較参考用として、同じ測定系で市販DACデバイスAK4396、PCM2704、ES9018K2Mの測定を行った(20230506追加)。

測定条件は次のとおり。

パソコンOS  :windows XP
正弦波発生   :WaveGene1.4    44.1kHz、F32bit
FFT       :WaveSpectra1.4  96kHz、24bit
サウンドカード  :SoundBlaster Premium HD

windowsXP上のWaveGeneで正弦波を発生させ、USBでSSDACのAmaneroに入力、
SSDACのアナログ出力をSoundBlasterのラインに入力し、WaveSpectraで測定した。

SSDACの測定結果を表1に、市販DACの測定結果を表2にそれぞれ示す。

表1. 1kHz正弦波再生時の全高調波歪+雑音(THD+N)
20230506thd_table2_20230506160801


表2.市販DACの1kHz正弦波再生時の全高調波歪+雑音(THD+N)
20230506thd_table3


スーパーサンプリングのTHD+Nが最小なのはSSDAC128基板AK4490出力の0.00268%、最大だったのは同基板PCM5102出力の0.00907%だ。これは+Nの部分が支配的だが、耳で聞いてわかるほどの差はない。
また、NOSのTHD+Nは多くが4%前後と、非常にわるい結果となっているが、これは信号周波数1kHzとサンプリング周波数44.1kHzのエイリアシングが出ており、測定系が96kHzであったために観測された(下記参照)。
PCM5102NOS出力のTHD+Nは他の4%前後より大幅に低い0.0933%になっているが、これは出力回路のローパスフィルタのカットオフが低いため、44.1kHz±1kHzのエイリアシングのレベル低下による。

代表例としてSSDAC128の16bitDAC、DAC8820の128倍スーパーサンプリング出力のFFTを図1に、同NOS出力のFFTを図2に示す。

Ss8820
図1.SS128のDAC8820スーパーサンプリング出力


Nos8820noise
図2.SS128のDAC8820 NOS出力


図1、図2の比較において顕著なのが図2のAで示したエイリアシングで、これがTHD+NがNOSで約4%になっている主な原因だ。信号周波数が1kHzに対して、サンプリング周波数が44.1kHzであるため、44.1kHz±1kHzのエイリアシングが発生している。
また、Bで示した範囲にもノイズが発生していることがわかる。
これらのノイズは、図1のスーパーサンプリング出力では抑えられている。

以上のとおりTHD+Nは同じスーパーサンプリングでも、デバイスやスペックの差により最小0.00268%から最大0.00907%と開きがあるが、音を聞く限り、この差はあまり音質に影響していない。
音の傾向に影響をもたらすのは、マルチビットかΔΣか、あるいは中間型のアドヴァンスドセグメントかの違いが大きいのではないかと思われる。

主観的な傾向としては、PCM1704、PCM1702およびDAC8820のマルチビットDACは表情が繊細、アドヴァンスドセグメントのPCM1795はビビッドで鮮烈、AK4490やPCM5102はそれらの中間のような印象がする。



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2022年6月24日 (金)

無帰還アンプ

このブログでは無帰還A級アンプ無帰還電流アンプ無帰還電流ヘッドホンアンプなど、無帰還アンプばかりを発表しているが、無帰還アンプを使い始めたのは実は最近のことだ。

2015年に金田明彦氏のフォノイコライザアンプの試作をした。
「電流伝送方式オーディオDCアンプ」金田明彦著
に掲載されていた「電流出力プリアンプ&パワーアンプ」のうちのフォノイコライザ部分のみを試作検証した。
このフォノイコは、DL-103のヘッドシェル内にJFETのVICを組み込んで電流伝送し、これをイコライザーIVCと呼ばれる電流入力の帰還型イコライザアンプで受けてRIAA処理する。オフセット対策としてSAOCと呼ばれる回路を搭載して、回路全体を通してDCを実現している。SAOCというのはDCサーボの一種だ。0.3mVという非常に微小なMCカートリッジの出力信号を、長旅させることなくヘッドシェル内で直接バッファアンプで受け取り、アンプまで送るというのは、理想的な考え方ではあるがなかなか実現は難しい。金田氏はこれを見事に実現した。
実際に作ってみると狙い通りSNRが非常に優れており、音質もよく、文句の付けどころは全くなかった。

このとき、ついでに以前から気になっていたCR型フォノイコライザを検証しておこう、と思ったことが、その後のアンプ設計に大きな影響を与えた。

高校生のときに2SK30を使ったシングルMCヘッドアンプを自作したが、それ以外はパワーアンプもフォノイコもすべて帰還アンプで、オーディオアンプというのはそういうものだと思い込んでいた。
ところが何かの記事で、「ツウは帰還型のイコライザを使わない。CR型を好む。」ということが書かれていたのが引っかかっていた。

CR型フォノイコライザを試作するにあたって参考にしたのは、安井章氏の製作記事だった。とはいってもそれほど正確に再現したわけではなく、CR回路の前後のバッファは部品箱にあったMUSES8920を使ってそれぞれ40dBとし、CR回路の定数だけ安井氏の設計にした。

音を聴いてみて驚いた。

SNRは金田式よりも劣っていたし、しかもカップリングコンデンサをつかってDCカットしているのに、音が鮮やかでリアルだった。
針を落としたときの音の印象も帰還型とはまったく違ってドライな印象がする(もっともこれはDCではないからかもしれないが)。
帰還型とCR型、DCと非DCなので、音の印象が違うのは当然といえば当然で、本当にCR型の方が音が心地良いのか?「ツウはCR型を好む」という言説に惑わされていないか?ということを念頭に、一か月ほど何度も取り替えて聴き比べをした。
その結果、特性はともかくとして自分はCR型の音の方が好きだという結論に達した。

帰還型のアンプというのは、つねに仕上がりの出力信号を入力信号と比較して、イコールになるように制御している。これを帰還制御といい、言葉通り動作していれば波形の再現性(=ひずみ)は理想的に仕上がるかもしれない。しかしながら実際に増幅回路を通過した信号は僅かながら遅れが生じる。常に遅れが生じた出力信号と入力信号を比較してこれらが等しくなるように増幅している、と考えれば帰還回路内の信号は非常に複雑な状態になっている。周波数が高くなるほど遅れの影響が大きくなり、ある周波数で位相遅れとゲインの関係が安定度の限界を超えたときに発振が起こる。こうならないように、高域特性を制限したり、位相補償を行ったりして安定性を確保する。これが帰還型アンプの現実だ。
一方、無帰還アンプは、定数により決められた増幅度で増幅するだけであり、高域で位相が遅れたり信号振幅が減衰することがあっても、それが帰還されて動作に影響することはない。きわめてシンプルだ。ただし、帰還型アンプと違って、波形を比較修正していないので、信号がひずまないように設計するのは難しい。
帰還アンプではひずみ率が0.01%以下などというのはザラだが、無帰還アンプでは0.1%を切れれば好成績という感じで、ひずみ率には10倍以上の差が出てしまう。なのでカタログスペックを重視するメーカーは作りたがらないのだ。

その後、パワーアンプも無帰還で作ってみたいと思うようになり、それならAuratone用に電流駆動アンプを無帰還で作れないか?と考えて開発したのが、無帰還電流駆動アンプだった。開発方針としては
①DC(直結)構成とする
②DCサーボは使わない
の2つを目標とした。
最初の試作から少しずつ改良を加え、最終的な回路を決定するのに半年ほど要したが、いまでもAuratone用としてはベストのアンプだと思っている。
ただ、DC電流駆動アンプは原理的にネットワーク入りのマルチウェイスピーカーには使えないし、フルレンジだとしても、今風のハイコンプライアンスのスピーカーでは低域が増強されすぎて非常にブーミーな音になってしまうことが多い。
そこで、この無帰還電流アンプをベースに開発したのが無帰還A級25Wアンプだった。このアンプは通常と同じ電圧出力のアンプなのでAuratoneだけではなく、マルチウェイのスピーカーにも使える。基板頒布したところ、ありがたいことに好評を得ている。

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2022年6月19日 (日)

CDの音質評価

少し前の記事で、自分はCD(またはレコード)でしか音楽を買わない、と書いた。入手性がよいことと音質が安定していることがその理由だ。
しかしCDでも音の良いものと、いまひとつのものがある。
レコーディングに使用した機材やレコーディングエンジニアの技量、ミキサーのセンスなど要因は多くあると思うが、今回はCDの曲の聴感上の音質と周波数特性(f特)に相関があるかどうかを検証した。

「CDのf特は20kHzまでと決まってるんじゃないの?」

という意見があろうかと思うが、市販のCDを調べてみると、
①20kHz付近までで、それ以上をカットしているもの
②22.05kHzまで入っているもの
③ ①と②の中間のもの
の3種類が存在している(圧縮音源からCDをプレスしている悪質なケースもあるが今回は除外する)。

今回、たまたま手持ちのCDを大量廃棄するという人がいて、150枚ほどのCDをまとめていただいた。そのほとんどが、自分では持っておらず、当然ながらほぼ聴いたことのない曲ばかりだったので、今回のような試験を行うには好都合だ。なぜなら、知っていて好きな曲では客観的に音質のみを評価するのがなかなか難しいのではないかと思うからだ。

まず基礎知識として、CDの特性がどうなっているかということを簡単に説明したい。
音楽CD録音品質は、44.1kHzサンプリング16bit深度だ。
可聴帯域上限とされている20kHzの音を再生するには、サンプリング定理から、その2倍のサンプリング周波数が必要であることから、44.1kHzサンプリングであれば必要十分だということだ。
この場合、44.1kHzの半分である22.05kHzを境にエイリアシングが発生するので、22.05kHzより上の周波数は遮断したい。だとすれば、可聴周波数上限の20kHzは通して、22.05kHzより上は通さないというフィルタが必要になる。これはよく見る説明だ。

ところが実際に音楽CDに入っている音楽を解析してみると、上に述べたように、①約20kHzまででカットしているもの、②22.05kHzまで入っているもの、③ ①と②の中間のもの の3種類が存在していることがわかる。
(22.05kHzまで入っているCDについて、技術的になぜそういうことが可能なのかはここでは議論しない。)

つまり今回検証するのは、20kHz~22.05kHzまでの範囲の信号があるかどうかでCDの音質が聴感上変わるかどうか、ということだ。

まず、ヒトの耳の周波数特性は一般的に20Hz~20kHzくらいだといわれている。
自分についてはどうかというと、高校生の頃は単音で19kHz近くまで聞こえた。50歳を過ぎた今では、だいたい16kHzくらいまでしか聞こえなくなっている。それならば、そもそも20kHz~22.05kHzの議論など無駄だと思われるだろう。はたしてどうか。

評価は次の方法で行った。あらかじめリッピングしてPCに取り込んだデータ(44.1kHz16bit wavフォーマット)を再生する。
①ランダムに曲を選び、聴く
②音質評価点を1(最低)~3(最高)の3段階でつける
③その曲のFFTをwavespectraで観察し、20kHzでカットしているものを1、22.05kHzまで出ているものを3、中間のものを2として評価点を付ける

【結果】
先に結果を報告する。
20kHzでカットしているものと、22.05kHzまで入っているものでは、聴感上あきらかに差があった
聴いた曲の聴感評価と、FFTによるf特評価結果を表1に、それをグラフ化したものを図1に示す。

表1.聴感とFFTによる評価結果
(曲名の冒頭には、追跡可能なようにアルバムでの曲順を入れた。)
Photo_20220619142501

Photo_20220619142502
図1.聴感とFFTによる評価結果
聴感とFFTによる周波数特性には相関が表れている。

この評価の結果から、22.05kHzまで入っているものは聴感上音質に優れているといえる。
CDをリリースすることになって、サンプル版をもらったら、まずはこの解析をして、もし22.05kHzまで入っていなかったら改善を申し入れたほうが良いだろう。音質が冴えなければ売り上げにも響くかもしれないし、ヒットするかどうかにも影響が出るかもしれない。

この中で注目してほしいのは、11番と12番の「君がいるだけで」だ。
これは米米クラブの有名なヒット曲で、11番はアルバム”DECADE”に収録されたもの、12番はアルバム”HARVEST SINGLES 1992-1997”に収録されたものだ。憶測だがマスターは同じものではないかと思う。マスターが同じなのに音質がちがうなどということがあるのだろうか。
いままでサルサDJをやってきた経験上、ある有名な曲をかけるときに、オムニバス盤に収録されたものよりオリジナルのアルバムに収録されているものの方が音が良いような気がする、ということが度々あったが、今回、実際にそういうことがあるのだということが証明された。


【評価の詳細】
評価した13曲のFFTを図2~図14に示す。

082
図2.とうちゃん f特評価2
※21kHz付近から急峻に下がっている→評価2

09september3
図3.湘南SEPTEMBER f特評価3
※22kHzまで出ている→評価3

063
図4.あなたに逢いたくて f特評価3


1043
図5.君が僕を知っている f特評価3


01come-on-everybody1
図6.COME ON EVERYBODY f特評価1
※20kHz過ぎに段差がある→評価1

123
図7.いつか見上げた空に f特評価3


011
図8.君の歌、僕の歌 f特評価1


10luv-vibration3
図9.Luv Vibration f特評価3


04destino1
図10.DESTINO f特評価1


103
図11.浪漫飛行 f特評価3


023
図12.02君がいるだけで f特評価3


012
図13.01君がいるだけで f特評価2


02141
図14.青年14歳 f特評価1

以上

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2022年6月15日 (水)

Auratone 5Cと電流駆動アンプ

2000年頃、今日の必ずトクする一言というサイトで、スピーカーを電流駆動して使うという記事があるのをみつけた。帰還型のパワーアンプとスピーカーなら、スピーカーとGNDの間に電流検出抵抗を入れて、アンプはスピーカー出力から帰還をかける代わりに電流検出抵抗から帰還をかければ電流駆動になる。
さっそく当時使っていた金田式B級アンプに手を入れて電流駆動化し、ひとり暮らし開始時に買ったSX-100を鳴らしてみると、なるほど高域と低域が持ち上がって、少しにぎやかな感じの鳴り方になった。電流駆動では、スピーカーのインピーダンスにかかわらず入力信号に比例した電流でスピーカーを駆動するので、インピーダンスのピークがあるf0付近と、インピーダンスが緩やかに上昇する高域で音圧が持ち上がる。これは小音量時にラウドネスをかけるのと似た感覚で、とくに部屋で小音量で音楽を聴く場合などに適している。

また、同じサイトでAuratone 5Cというスピーカーが紹介されていた。これはかつてアメリカのスタジオにほぼ常備されていたニアフィールドモニタスピーカーで、ニュートラルな音と堅牢性に定評があって、愛好家がいるという。ただ残念なことにこれは70年代から80年代にかけて製造されたスピーカーで、もはや新品では入手不可能であった。
サイトでは、Auratone 5Cは電流駆動するのが良い、と書いてあって、これはいつか試してみたいと思っていた。

それからしばらく経った2010年頃、ふと思い出して、ヤフオクでAuratone 5Cを検索すると、なんといくつか出品されていたので購入して、音を聴いてみた。
聴いた最初の印象は「なんだか地味でとくに……」という感じだった。ボーカルだけは素直できれいに聴こえるが、楽器の鳴りが物足りない。低域も高域も足りない感じがした。
そこで、上記の電流駆動に切り替えて鳴らしてみたところ、低域と高域が持ち上がって、楽器の鳴りにもかなり厚みが出た。上のサイトで言っていた、Auratoneは電流で鳴らすとよい、というのはこういうことだったか!と感銘を受けた。

もともと使っていたSX-100はどうかというと、音を聴いて買ったスピーカーなので気に入って使っていたが、Auratoneと比べると、楽器はいいのだがボーカルが弱く感じる。
そこで、これはかなり変則的だが、SX-100とAuratone 5Cを直列にして鳴らしてみるとなかなかよろしい。Auratoneが弱い楽器をSX-100が補い、SX-100が弱いボーカルをAuratoneが補う。2022年現在もこのセッティングで聴いている。
アンプはすでにこのブログで紹介した無帰還電流アンプと無帰還アンプを気分によって使い分けているが、どちらできいてもよい感じで鳴っている。

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2022年6月12日 (日)

音声圧縮と音楽業界の衰退

いつのことだったか正確にはおぼえていないが、1995年前後だったと思う。
当時勤めていた会社のレコーディング機材の事業部で、MDを使ったMTRの検討のため試聴会をやるので、希望者は参加してほしいとのことだった。おもしろそうなので参加した。
ジャズやクラシックの音源と、それをMDに録音したものの聴き比べだったのだが、MDに録音した方は聞き分けられるレベルで音質が劣化していた。
音楽用途で、しかもMTRということはピンポン録音の可能性まであるとすれば、これは使い物にならないだろうから企画倒れじゃないかと思っていたが、予想に反してMDを使ったMTRは開発され販売されたようだ。

その後、たしか2000年頃だったと思うが、mp3に音声圧縮ができる「午後のコーダ」というフリーソフトが話題になり、おもしろそうなのでダウンロードして、音楽をmp3に圧縮して聴いてみたが、とてもじゃないが音楽に使うようなものではなかった。

デジタルによる録音は、データが変化しないが故に高品質が保たれるのが最大のメリットなのに、非可逆圧縮してデータの再現性が損なわれてしまったら意味がない。

たしかに実用上不便が生じない範囲でデータ量を減らすことが有効なこともあるだろうが、それは語学教材とか、通話とか、とにかく伝わりさえすれば音質にはさほどこだわらない、という用途に限られるだろう。音楽に使うというのはありえないと思った。


ところが、2010年くらいからクラブシーンなどであきらかに圧縮音源とわかる悪質な音源を使う人が出始めると、あっと言う間に普及し、そういう店には行く気がしなかった。
クラブシーンだけではなく、一般の音楽再生にも普及し、気軽に安くダウンロードできる圧縮音源ファイルで音楽を聴くということが完全にあたりまえになってしまった。
これはぼくの考えだが、圧縮音源の普及は、作り手とリスナーの両方の感受性を蝕み、創作される音楽の質は低下し、リスナーは音楽から離れていく。ぼく自身、ある曲が圧縮音源でしか手に入らないなら、その曲は聴かない。
現在のぼくの立ち位置は、音楽の購入はCD(またはレコード)のみである。
もちろんCDが完璧というわけではないが、世界中のあらゆる音楽ジャンルにわたって供給と音質が最も安定しているからだ。

DJが圧縮音源を使ってクラブシーンを破壊してしまうのには、店側にも原因がある場合がほとんどで、多くの店はDJにお金を払いたくないので、ちょっと音楽に詳しい客に目を付けて、おだてて、DJという称号(?)を与え、タダ同然で使う。タダ同然なのでCDを買うようなお金はなく、ダウンロード音源を使う。ひどい場合はyoutubeから録音してるなんてことすらある。
また”プロ”と称しているDJでも信じられないことに圧縮音源を使う人がいる。信じられないとしかいいようがない。
あるいはまた、せっかくCDで購入しているのに、リッピングで圧縮してしまってる人がいる。もうどうしようもない。

それでは生演奏が至上なのか。
PAを介さずに完全に生音だけで耳に届く演奏であれば、生演奏に優るものはないと思う。
ところが現代の音楽は、生演奏といえどもほとんどの場合PAが介在する。
PAが入るコンサートやライブで、とくにポップスやロックの場合は、ほぼ例外なく音量がデカすぎる。ボーカルが歌っている内容が聴き取れるだろうか?おそらく全体の音量が大きすぎて聴き取れない場合がほとんどだと思う。
その点、CDであれば最適な録音ですべての楽器や歌がきれいに聴き取れるようになっている。
なのでぼくは必ずしも生演奏が至上とは思っていない。

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2022年6月11日 (土)

SSDAC頒布についてのお知らせ

現在SSDAC関連基板を5種類頒布していますが、SSDACに使用しているFPGA、10M08SCE144C8Gが入手困難となっていて、在庫がなくなりました。
つきましては、各種SSDACでFPGAのみを搭載した基板については一旦頒布中止とします。
予約連絡いただければ、頒布再開後に優先して受け付けます。

完成基板につきましては、現在僅かながら在庫がある10M08SAE144C8Gにて対応し、動作確認の上出荷します。

ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

 

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