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2025年11月 6日 (木)

インダクタの不思議

Nvna
写真1.高周波測定に革命を起こしたnanoVNA
2020年頃にアリエクで12000円ほどで購入。


前回、安価なワンセグチューナ用USBドングルを使用するSDRでAM放送を受信することを目的に、アップコンバータを付加する記事を書いたが、使用するDBM(ダブルバランスドミキサ)のコイルをまじめに設計して測定しておこうと思い、nanoVNAを使って作業していたら、ちょっと不思議な感じがする事象に出会ったので備忘録として書いておこうと思う。
高周波の世界の住人なら常識かもしれないが、オーディオ帯域に生息する私としては少々不思議な感じがしたのだ。

DBMに使用するトロイダルコアトランスの、コアや巻き数を変えて何パターンかを作って、それが狙い通りのインダクタンスになっているかどうか確認作業をしていた。その作業中、ふと、

「バイファイラ巻きにした2巻線の両端をそれぞれ接続して並列接続にしたもののインダクタンスはどうなるんだろう?」

つまり、断面積が2倍の導線を同回数巻いたのと同一(インダクタンスは等しい)なのか、それとも個別のインダクタを並列に接続したの(インダクタンスは1/2)と同等だと考えるのか。
コアが共通で、コイルを通過する磁束は共通しているので、前者になりそうな気がするのだが、どうも確信が持てないので、nanoVNAで実測してみることにした。

測定対象は、以前アリエクで購入した外径8x内径4xt3の特性不明なフェライトトロイダルコアに、Φ0.2mmホルマル線を、①2巻線分離で5T(5回巻き)、②2巻線バイファイラで5T、③比較用として単線で5Tの3種類のトロイダルコイルを用意し(写真2)、①、②の2巻線のものについては、2巻線をそれぞれ単体で測定(他方はオープン)、および2巻線を並列接続して測定、の組み合わせで、周波数を1MHz、100MHzの2とおりで評価した。
測定結果を表1、表2に示す。

Inductors
写真2.測定対象のトロイダルコイル
左からバイファイラ5T、分離巻き5T、単線巻き5T


表1.1MHzでの測定結果
L1mhz

表2.100MHzでの測定結果
L100mhz


まず、表1の1MHzでの測定結果は、予想通りいずれの巻き方においてもインダクタンスは同等の結果となった。つまりバイファイラでも分割巻きでも、同じコア上に同回数巻いたコイルの並列接続は、単線の同回数巻きのコイルと同等ということだ。

次に同じ測定を100MHzで行った結果を表2に示す。
この結果がとても興味深い。バイファイラ巻きの場合は、それぞれの単線で測定しても並列接続にして測定してもほぼ同じ結果となり、これは単線巻きのみのものともほぼ等しくなった。
ところが、同じコア上に分離して巻いた場合は結果が異なっている(表中赤文字)。
分離巻きの各単線のインダクタンスは、バイファイラ巻きの場合のおよそ1.7倍、そしてこれらを並列接続するとインダクタンスは半減している。

バイファイラ巻きと分離巻きでもっとも違うところは、2巻線の線間容量だろう。1MHzという低い周波数では線間容量は無視できたが、100MHzでは顕在化したということか。
また、分離巻きで並列接続時に、個別のインダクタンスのおよそ半分になっているのは、2巻線間の結合係数の低下が原因だろうか。周波数が上がって、結合係数が低下するということは、周波数の上昇に伴い透磁率μが低下しているからとも考えられる。
そうすると、今回使用したコアは、100MHzではかなり性能が低下している可能性がある。ちなみに、今回使用したトロイダルコアでは、インダクティブからキャパシティブに転じる周波数は約350MHzだったので、100MHzではまだ余裕があるように思う。

そういうわけで、数MHzから上の帯域を扱う場合はオーディオ領域の感覚ではなく、厳密に物理的に考える必要がある、ということがわかった。

ところで、今回測定に使用したnanoVNAは、高橋知宏氏が2016年頃に個人的に開発したものが世界に広まって進化したものだそうだ。これまでVNA(ベクター・ネットワークアナライザ)は企業の高周波開発部隊にしかないような、大変高価(数百万円~数千万円)な計測器で、個人で所有するようなことはまず考えられなかったし、企業であっても高周波を専門に扱う部門でなければ縁がなった。つまり高周波は計測の敷居が高いので、小規模の開発グループや個人では、なかなか定量化して事象を考察したりすることが難しく、どうしても出たとこ勝負や勘や経験に頼る傾向が強かったように思う。ところがnanoVNAが世に出たおかげで、高周波の測定、解析の敷居が大幅に下がり、理詰めで検討することが容易になったことは非常にありがたいことで、これはここ10年で起こった大革命だといっても過言ではないと思う。髙橋知宏さん、ありがとうございます。


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