無帰還A級電流駆動パワーアンプ(基板頒布あり)

写真1.製作した無帰還A級電流駆動アンプ
このブログで、無帰還電流駆動パワーアンプの製作に着手したのは2015年で、当時ちょうど手作りアンプの会の無帰還アンプ大会があり出品しました。その後改良を重ね2016年にはほぼ完成形になり、とても気に入っていまだに使っているアンプです。
このアンプはもともとAuratone 5Cを鳴らすことを主な目的としたアンプです。
Auratone 5Cはアメリカでスタジオ用のニアフィールドモニタとして設計されたキューブ型のフルレンジスピーカーで、とてもニュートラルで自然な音がする反面、低域と高域が少し寂しい感じがするため、電流駆動をして低音、高音をすこし賑やかにすると、小音量でも満足な音質で聴くことができます。
当時、旧金田式のパワーアンプを電流駆動に改造してAuratoneを聴いていましたが、これを無帰還アンプで実現できないか?と思ったのが開発のきっかけでした。
DC(直結)構成にしたいので、スピーカーの保護回路は必須なのですが、電流駆動アンプの場合は出力インピーダンスが高いため、スピーカー出力をリレーで短絡してスピーカーを保護するという方法が使えます。この方法により、保護回路のリレー接点が音に影響を与えることはありません。しかしながら、DC電圧を検出してスピーカー出力を短絡した瞬間、スピーカー出力端は0Vとなるため、保護回路が解除されると、ふたたびDC電圧が出力されて保護回路発動……という事態が繰り返され、これでは保護回路の意味がなくなってしまいます。
また、スピーカーの保護が働いたということはアンプの故障の可能性もあり、その状態でスピーカー出力を短絡すれば、最悪の場合アンプが火を噴くという可能性もなくはありません。
そこで本機は、スピーカー短絡と同時にAC電源を遮断し、電源を入れ直さない限り復帰しない、というめずらしい保護回路を搭載しています。
2025年現在、もうすでに8年間使っていて、基板を起こそうと何度か考えたのですが、保護回路は左右共通で、AC遮断用のSSR(ソリッドステートリレー)基板を含めると、
アンプ基板(L)、アンプ基板(R)、保護回路基板、SSR基板
と、基板の構成が複雑になるため、なにかよいやり方はないものか……とその都度先送りになり、8年の歳月が……(^-^;
今回思いついたのは、おそらくこのアンプでマルチシステムを組む可能性は低く、それならばL,Rの2チャンネルと保護回路をすべて搭載した基板を1枚起こせば、全体構成はとてもシンプルにできるということで、ついにプリント基板化に着手しました。
【電流アンプの音圧特性】
電流アンプでスピーカーを駆動すると、具体的にはどのような特性になるでしょうか。
①旧金田式パワーアンプ、②無帰還電圧アンプ、③無帰還電流アンプのそれぞれでAuratoneを鳴らしたときの音圧特性を図1に示します。
これは2016年に行った測定結果の再掲です。
図1.各アンプ駆動時のAuratone音圧特性
これはminiDSP UMIK-1を使って、Auratoneの軸上10㎝の距離で測定した音圧特性で、旧金田式アンプは1990年頃作った金田式アンプ、無帰還電圧アンプは現在頒布中のPAV-001同等品、そして無帰還電流駆動アンプは今回取り上げているアンプです。
旧金田式アンプでの音圧特性を基準としてみると、無帰還電圧アンプでは低域、高域の肩の部分が、ほんの僅かに持ち上がっています。
無帰還電流アンプでは200Hz近傍がはっきり持ち上がっていて、4kHz付近から上も少しずつ持ち上がっています。これがまさに電流駆動アンプの特徴で、スピーカーのインピーダンス特性に沿った音圧特性になります。
この結果、低域と高域が増強されて、小音量でも賑やかな印象の鳴り方になります。
【アンプ回路の説明】
図2にアンプ部分の回路を示します。
図2.電流アンプ回路
全体の大きな動作としては、まずFET Q1、Q2のゼロバイアス回路で入力信号を受けて、Q5、Q6および4つのダイオードで、次段のバイアス電流を決めるための電圧を発生し、入力信号と合成します。
次の段のQ7、Q8は前段でバイアス電圧を重畳した信号を受けて電流に変換し、その電流をカレントミラーの基準側(Q9、Q10)に渡します。
カレントミラーの基準側は、およそ10mAを中心とした音声信号電流が流れ、これをカレントミラーのミラー側(終段)に渡しますが、終段はA級アンプとしておよそ1Aのアイドリング電流とするため、カレントミラーの電流比を100倍とするためにエミッタ抵抗を0.47Ωとしています。
通常のカレントミラー回路で、基準側が10mAとしてミラー側が1Aということは成り立つでしょうか?トランジスタのHfeが100程度とすると、ミラー側のベース電流が10mA必要となり、破綻してしまいます。これを解決するために考案したのがGM回路です。
この回路の+側のカレントミラー(Q9、Q11)に着目すると、この回路ではカレントミラー出力側のQ11にQ13が接続されています。これによって、Q11とQ13の組み合わせとしてのVbeはQ11単体に等しく、HfeはQ11とQ13それぞれのHfeの積に匹敵する、ひとつのトランジスタとみなすことができて、電流比100倍、出力側電流が1A超でもカレントミラーとして動作します。
これはQ11がQ13を「ランプの精」のように使って大きな仕事をしていることから、"Genie of the Mirror"(鏡の精)、略してGM回路と名付けました。
また当初、終段のアイドリング電流が熱暴走しないようにQ5とQ13およびQ6とQ14を熱結合していましたが、今回新たな検証によってこれらの熱結合が不要であることがわかりました。
この回路では終段のアイドリング電流を決めているのがVbeではなく、ベース電流Ibであるため、温度上昇によって終段Q13のVbeが下がったとしてもIbには影響がありません。また、温度上昇によってQ13のHfeが上昇したとしても、ミラー側のエミッタ抵抗R13に電圧降下が生じ、カレントミラーの動作によって電流が保証されます。
よって、いずれのデバイスも終段トランジスタに対する熱結合は不要で、すっきりした仕上がりになります。
本機のA級最大出力は、負荷8Ω、アイドリング電流1.25Aのときにおよそ25Wです。
【保護回路の説明】
保護回路を図3に示します。
図3.保護回路
保護回路は左右それぞれのスピーカー出力(Lch Out、Rch Out)のDC電圧を監視して、DCが検出された場合はリレーK1でスピーカー出力をGNDに短絡してスピーカーを保護するとともに、SSR_In+、SSR_In-出力をOFFすることで、SSR(ソリッドステートリレー)でAC100V電源入力を遮断します。AC100Vが遮断されると、次に電源が投入されるまで、自動的には復帰しません。
この方式を実現するために、電源スイッチはモメンタリーとなっていて、一瞬AC100VをオンするとSSRが起動してオン状態を継続し、電源を切る場合は一瞬SSRをオフすることでSSRをオンしていた電源も遮断され、全体としてオフします。
本機の全体回路はダウンロードしてご覧ください。
【本機の諸特性】
本機の諸特性は以下のとおりです。
図3,図4にひずみ率特性を示します。THD+Nはボトムで0.03~0.04%程度、10Wで最大0.3%程度でした。今回の製作例ではスイッチング電源との距離が近く、とくに左チャンネルに50Hz系のノイズが重畳したため、左チャンネルの方が若干特性がわるくなっています。

図3.ひずみ率特性(Lch) 図4.ひずみ率特性(Rch)
周波数特性は左右差がなかったので、代表して左チャンネルの特性を図5に示します。測定条件は、入力1Vp-p、出力負荷8Ωです。
図5.ゲイン周波数特性 -3dB特性はDC~約450kHz
出力インピーダンスの測定結果を表1に示します。測定は、100Hzと1kHzは負荷1kΩと500ΩでのON/OFF法で連立計算、10kHzは同じく240Ωと120Ωの連立計算で行いました。
表1.出力インピーダンス実測値
プロテクト動作電圧を表2に示します。これは無帰還電圧アンプとほぼ同じ結果です。
表2.プロテクト動作電圧
このアンプは自室での普段使いのアンプとして、Auratone 5CとビクターのSX-100(10㎝フルレンジ+バスレフ)を直列にして接続して聴いています。シンプルですが比較的小音量でもメリハリのある音質が得られて、たいへん満足しています。
【基板頒布情報】
生基板1枚(ステレオ分、保護回路搭載)と、製作説明書と回路図、部品表、製作例等の資料、LTSPICEのシミュレーションファイルをセットで1700円(税・送料込み)で頒布します。自力で部品収集、部品選別、調整できる方が対象です。
ご希望の方は表題に「無帰還電流パワーアンプ基板頒布」、本文にお名前、送付先郵便番号、ご住所、電話番号をお書きのうえ、
dj_higo_officialアットhigon.sakura.ne.jp
(アットを@に替えてお送りください)
までメールをお送りください。
代金の振込先のご案内メールをお送りします。入金が確認でき次第発送します。
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