無帰還フルディスクリート ヘッドホンアンプ 2機種 ( 基板頒布あり )

【20250622追記】
①出力インピーダンス測定結果
測定条件:出力1Vp-p、負荷33ΩによるON/OFF法により測定。
・HPAV-001b(FET入力)
L:4.5Ω R:3.5Ω
・HPAV-100(バイポーラ入力)
L:5.2Ω R:4.5Ω
②試聴による違い
2025/6/21に開催された手作りアンプの会「三土会」において、
HPAV-001b(FET入力)とHPAV-100(バイポーラ入力)をプリアンプとして接続し、スピーカー出力して
ご来場のみなさんに試聴していただきました。
視聴後、どちらのアンプが好みかというアンケートを採ったところ、
HPAV-001b(FET入力)を選んだ人が9名
HPAV-100(バイポーラ入力)を選んだ人4名
という結果になりました。
やはりFETとバイポーラでは違いがあり、人の好みによって分かれることがわかりました。
広い会場で大きな音で聞き比べる方が違いが明確になるようです。
【これより本文】
2020年に発表した、無帰還A級25Wパワーアンプはたいへん好評で、当ブログのベストセラーになっている。お買い上げくださったみなさま、ありがとうございます!
今回は、この無帰還パワーアンプ回路をヘッドホン用にリメイクした無帰還ヘッドホンアンプを製作した。
また、前回のブログで発表した無帰還CR型フォノイコライザでは、フラットアンプに無帰還JFET入力アンプを採用し、良好な結果を得ている。
そこで、今回は無帰還A級パワーアンプと同じバイポーラ入力と、そこから派生したJFET入力の2種類のヘッドホンアンプを製作し、比較を行った。
たとえばオペアンプでは製品毎に音質は明らかに異なるし、バイポーラ入力かFET入力かによっても音の傾向に違いがあるが、はたして今回はどのような結果になるだろうか??
また、今回はおよそ±0.2VのDCを検知すると出力をシャットダウンする、フォトMOSスイッチを使った無接点タイプの保護回路も新開発した。
なお、当ブログでは過去に、無帰還電流駆動ヘッドホンアンプを発表しているが、そちらの記事も参照してほしい。
【回路説明】
図1に、バイポーラ入力のHPAV-100、図2にJFET入力のHPAV-001bの回路を示す。
図1.バイポーラ入力 HPAV-100 回路
図2.JFET入力 HPAV-001b 回路
どちらの回路も入力信号をプッシュプルカレントミラーで電流増幅した後に、抵抗でI/V変換し、出力のプッシュプルバッファから出力するという全体の動作原理は共通だが、入力回路が違っている。図1のHPAV-100では無帰還A級25Wパワーアンプと同じく、ダイヤモンドバッファで入力信号を受けている。対して図2に示すHPAV-001bではゼロバイアスのJFETで入力信号を受けているところが異なる。
次に、電源回路と、今回新開発した保護回路を図3に示す。
図3.電源回路と保護回路
図3において、左端の2個のコネクタにそれぞれリチウムイオン電池が接続され、±3.8Vの電源を構成するが、電池を2個つかって正負電源を構成し、1回路の電源スイッチによって正負電源を同時にON/OFFするにはどのようにしたらよいか……?
今回は入力ボリュームにスイッチ内蔵のものを採用して、シンプルな構成にしたが、ボリューム内蔵のスイッチは1回路しかなく、工夫が必要だ。
そこで今回は正側の電源をスイッチでON/OFFし、正側の電源がONするとQ30,Q29を介して負側の電源をONする回路を構成した。
つぎに保護回路だが、ヘッドホンの保護回路はパワーアンプ用のものをそのまま流用したのでは、検知電圧が高くて実質的に保護になりにくい。よくあるパワーアンプ用の保護回路は、トランジスタのVbeを利用してDC電圧を検出するため、検出電圧は0.7~1V程度になっていることが多く、この電圧ではスピーカの保護にはなるがヘッドホンではかなり厳しい。
そこで今回は、同じくトランジスタのVbeで受けているが、エミッタの電位を調整することで相対的におよそ±0.2Vでの検出を実現している。
エミッタ電位はLEDのD7,D8とR47~R49で生成、調整している。
ヘッドホン用の保護回路では、アンプ出力をオペアンプで2~3倍してから、パワーアンプと同タイプの保護回路に入れて感度を上げる、という方法がとられることがあるが、今回はディスクリートにこだわりたかったのでこの回路構成にした。
また、保護回路によるアンプ出力のON/OFFは、従来からメカニカルなリレーが使われることが多かったが、これは接点劣化による音質の悪化という深刻な問題があった。そこで今回は赤外線LEDとフォトMOSFETで構成されるフォトリレーを採用し、接点の問題を解決した。
HPAV-100とHPAV-001bの全体回路は次のとおりです。ダウンロードしてご覧ください。
ダウンロード - hpav100_sch000.pdf
【特性の比較】
まずは両者の周波数特性(負荷33Ω、出力200mVp-p)を図4,図5に示す。

図4.HPAV-100周波数特性 図5.HPAV001b周波数特性
両者とも1MHzまではほぼフラットで、-3dB周波数は、HPAV-100(バイポーラ入力)が1.7MHz、HPAV-001b(JFET入力)が3.2MHzとなっていて、ずいぶん差があるように見えるが、じつはこれはゲイン差によって生じているものだ。アンプゲインがHPAV-100は約15dB、HPAV-001bが約12dBであり、ゲインが8dBとなる周波数は両者とも4MHzとなっていることから、両者の周波数特性にはほとんど差はない。
次にひずみ特性を図6,図7に示す。
図6.HPAV-100 ひずみ率 図7.HPAV-001b ひずみ率
ひずみ率は値、傾向ともに両者に大きな差はなく、いずれもTHD+Nがボトムで0.02~0.03%程度だった。
最後に33Ω負荷、出力2Vp-pの方形波の応答波形を図8,図9に示す。
図8.HPAV-100 10kHz方形波応答 図9.HPAV-001b 10kHz方形波応答
方形波の応答ではいずれもオーバーシュートやリンギング等は発生していないため、位相補償は不要だった。
【試聴による比較】
さて、いよいよ試聴による比較だが、これはバイポーラ入力とFET入力のオペアンプのような、はっきり聴いてわかるような違いが出るのではないか、という予想に反して、ほとんど音質差が認められなかった。
ほとんど錯覚ではないか、というレベルでハイハットやボーカルの息継ぎの音の質感にかすかな違いがあるように感じられなくもないような感じがしたが、それはおそらく先入観によるものではないかと思われた。
試聴はPioneerのHDJ-1500とEtymoticのER-4で行ったが、どちらも同じ結果だった。
そうすると今回の2種のヘッドホンアンプについて、どのように解釈すれば良いだろうか?
よい方向に解釈するならば、いずれの回路も完成度が高く、性能差がほとんどなかったため音質に差が出なかった、と考えてはどうか。
これは褒めすぎか?(^-^;
あるいは、音質に違いがあるのにそれを感じられるだけの耳を持っていない……これはアンプビルダーとしては少し悲しい……(/_;)
いずれにしても、この2台のアンプの音質は十分に満足なものなので、暑くなるこれからの季節は、これらのヘッドホンアンプで過ごそうと思います(^-^)
【基板頒布のお知らせ】
次のとおり、この2種類のヘッドホンアンプ基板を頒布します。
生基板1枚と製作マニュアル、資料一式、およびLTSPICEのシミュレーションファイルのセットです。
① HPAV100(バイポーラ入力)
1880円(税、送料込み)
②HPAV-001b(JFET入力)
1880円(税、送料込み)
③両基板各1枚セット
3300円(税、送料込み)
ご希望の方は表題に「無帰還ヘッドホンアンプ基板頒布」、
本文にご希望の基板番号、お名前、送付先郵便番号、ご住所、電話番号をお書きのうえ、
dj_higo_officialアットhigon.sakura.ne.jp
(アットを@に替えてお送りください)
までメールをお送りください。
代金の振込先のご案内メールをお送りします。入金が確認でき次第発送します。
製作資料は以下からダウンロードしてください。
HPAV-100 (バイポーラ入力) 資料一式
LTSPICEシミュレーションファイル
HPAV-001b(JFET入力)資料一式
LTSPICEシミュレーションファイル
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