« プリンタヘッドのうがい(MG6230) | トップページ | 中華製温調はんだごて(4) »

2025年3月 8日 (土)

DT71 ピンセット型デジマルの救済(1)

Dt71
写真1.ピンセット型デジタルマルチメーター DT71

2021年にAliexpressでおよそ1万円で購入した、ピンセット型のデジタルマルチメーターDT71。
写真1に示すとおり、デザインが洒落ていて、ピンセット型なのでチップ部品を測定するのにも便利だ。
機能も充実していて、電圧、抵抗値の測定は当然として、コンデンサの静電容量と、コイルのインダクタンス、それに周波数カウンタ機能にシグナルジェネレータ(Sin波、方形波、ノイズ)まで付いている。
電源は超小型のリチウムイオン電池が内蔵されている。専用の充電ケーブルでUSBに接続して充電するようになっていて、交換はできないし、充電中の使用はできない。

気に入って使っていたが、いくつか問題点があった。

まず第1に、電源が完全に切れない。ふだん電源OFF状態はsleepとなっていて、ちょっとした振動を検知して自動的に電源をONする仕組みだ。また使わないでいると、1分ほどで自動的にsleep状態となる。
ただこれはかなり致命的な欠点で、たとえば出先で使いたいのでカバンに入れて持っていくと、移動中の振動で頻繁にスイッチが入ってしまい、現場に着いて使おうとすると電池切れになっていたりする。

動作状態での消費電流はおよそ6mA、sleep状態の消費電流はおよそ50μAで、電池はピンセット型の両脚の中に小型のリチウムイオン電池がそれぞれ1個ずつ内蔵されていて、容量はそれぞれ50mAhなので、合計で100mAh。そうするとフル充電では16時間程度はもつ計算だが、実感としてはそんなにはもたないような感じだ。おそらくいつもフル充電とは限らないことや、電池の劣化が早いということが理由として考えられる。

また、sleep電流50μAというのもリチウムイオン電池で使うには問題がある気がする。というのは、フル充電からの放置で100mAh/50μAで2000時間で空になる計算となる。2000時間というと83日、つまり3ヶ月弱だ。うっかり3ヶ月使わずに放置して電池を空にしてしまうと、かなり電池を傷めることになる。

ぼくの場合は、2年に満たないうちにかなり電池が劣化してしまい、使いたいときには電池切れ(-_-)という事態が頻繁に起こり、そこから充電していたのではもはや意味がない。
この機種に使われているリチウムイオン電池は、300829型、つまり厚さ3mm x 8mm x 29 mm というかなり小型の特殊サイズの電池で、これがピンセット型の両脚に1個ずつ入っている。1万円以上する測定器を2年くらいで使い捨てるのはあんまりなので、電池交換しようと思い、このサイズの電池を探したが、どこにも売っていない。特注品のようだ。

そういうわけで、せっかくデザインも洒落ていて機能も充実しているのに、電池が劣化して放置してあった。

そこで今回は、ピンセット型ということはあきらめて、電池を外から供給する改造をして使えないかを検証した。

まずこの製品の構造だが、写真2のようにピンセット部分と表示パネルの付いた本体部分に切り離すことができる。

Dt71parts
写真2.ピンセット部分(左)と本体部分(右)

ピンセット部分には両脚に電池、および充電回路、本体部分にはマイコンと表示パネルが付いている。
ピンセット部分と本体の接続は、4PのΦ3.5プラグとジャックで、これはイヤホンなどに使われるのと同じものだ。
今回の目的は、ピンセット部分はあきらめて、新しく電池とテストリード接続部を作って使えるようにするということで、先に写真3に完成写真を示す。


Overview1
写真3.今回の成果物(電池は基板裏面に搭載)

このとおり、本体部分に電池とテストリードのコネクタを載せた基板を接続した。
ピンセット型の使い勝手を捨てるのは惜しい気がするが、考えてみればわれわれ日本人はテスター棒を片手でお箸のように扱うのが普通なので、使い勝手はさほど変らないのである。ピンセット型が非常に便利だと感じるのは箸を使わない人たちだろう。

今回の工作をするにあたって、ピンセット部と本体の接続がどうなっている知る必要があるので、ネット検索したところ、見つけることができた。このひとは、このピンセット型のデジマルが故障してしまい、なんとか復活させたいということで改造を行ったそうだ。これはHackadayというサイト内の記事である。

ここに掲載されていた回路図を、図1に示す(無断)。

7766241652662938000
図1.ピンセット部の回路図(DT71と書いてあるプラグ状のものが本体)


回路図を見ると、電池とともに充電回路が内蔵されているが、今回の改造では電池は外して別の充電器で充電するということにした。電池を外せるようにしておく方が、急ぎの場合は電池を交換して使えるので便利だからだ。

今回製作した基板の回路と、本体のΦ3.5プラグの信号を図2に示す。J1、J2がテストリードの接続端子、Jk1が本体と接続するΦ3.5の4Pジャック。

Dt71_sub_sch Connect

図2.今回の回路図と、本体Φ3.5プラグの結線


今回の製作では、本体のスリープ機能には頼らずに電源スイッチを設けて、切り忘れがないように電源LEDを搭載した。
また、電池は交換(外部で充電)を前提として、付け外しがあることから、万が一逆接続した場合でも本体を破壊しないようにダイオードD1をつけた。

完成品はすでに写真3に示したとおり。裏面の様子を写真4に示す。

Sideb
写真4.裏面の様子

写真4に示すとおり、裏面にはドローン用の400mAhのリチウムイオン電池が搭載されている。

さて、この本体側のプラグが、少し奥に入り込んだところから出てきている(写真5)ため、基板を少し削って、本体の縁を逃がしている(写真6)。
基板は以前製作したFMラジオ基板の試作品を流用した。ちょうとΦ3.5の4Pジャックが使われていて好都合だったので。

Dt71plug
写真5.本体のプラグは奥に入り込んでいる

Plug_jack2
写真6.プラグ生え際が凹んでいる分、基板を削って本体の縁を逃がす


テストリードは汎用のテストリードを使えるように、マルチメーターによく使われているスリーブ付きのバナナプラグの受け側を使いたかったのだが、それが何という名前なのかわからずなかなか探し出せなかった。どうやら「絶縁体付きセイフティプラグ用Φ4ソケット」というものらしい。amazonでは「インディングポストコネクタ 4 mmバナナメスソケットジャックスピーカー端子」として販売されていた。
この端子を写真7に、取り付けた状態を写真8に示す。

4mm
写真7.今回使用した「絶縁体付きセイフティプラグ用Φ4ソケット」


Con_side
写真8.ソケットを取り付けた様子


このように、汎用のテストリードを使えるように作っておくと、ピンセット型のテストリードも使える(写真9)。

Pinset_probe
写真9.ピンセット型のテストリードを接続


ところで、ぼくは右利きなので、テスター棒は右手で持つ。ということは、テストリードのコネクタを右に、本体を左にすべきではなかったか?しまった!!
と一瞬思ったが、じつはこの本体の表示は傾きの方向に応じて自動的に表示方向を変えてくれるの問題なし(写真10)(^-^)


Overview1mirror
写真10.右利き配置でもだいじょうぶ!

どうやらこれで無事に完成したが、すこし心配だったのは、ピンセット状態に比べるとテストリード部の距離が大幅に長くなっているので、これが測定誤差になるのではないかということだった。直流の電圧や抵抗値は問題ないと思うが、パルスを使って測定を行う静電容量やインダクタンスは正しく計れるだろうか?
いくつかのコンデンサとインダクタを測定した結果を表1に示す。

表1.コンデンサとインダクタの測定
Sokuteilc


表1に示すとおり、おおむね良好な結果となった。インダクタは10μH以下は怪しいが、それ以上では使えそうだ。コンデンサ測定は一桁PFまで測定できていて、たいへん優秀だ。
測定端の信号をオシロ観測したところ、インダクタではインダクタンスに応じた周波数の連続波形が出ていたので、インパルス法ではなく、発振周波数を計測する方法で測定しているのかもしれない。またコンデンサは、小容量では同じように連続波形が印加されていたが、大容量では波形は出ていなかったので、容量によって測定方法を替えているのかもしれない。

表1の結果では、10μH以下のインダクタは怪しかったが、それではリード長の短いオリジナルのピンセット型との比較ではどうかと思い、あらためて比較測定をしてみた。表2に結果を示す。


表2.ピンセット型(オリジナル)と今回の改造品のインダクタンス測定比較
Inductor_check

やはりリード長の影響はあるようで、もとのピンセット型での測定では1μHまでは測定ができているが、今回の改造品では10μH以下はダメそうだ。10μH以下のインダクタンスを測りたい場合はもとのピンセット型に戻して測定する必要がある。


というわけで今回は、ほぼピンセット型デジタルマルチメーターDT71を救済することができた。
この製品は人気があるようで、いまだに売られている。デザインも良くとても便利だが、電池が劣化すると交換ができず、使い捨てるか、今回のように改造して使うかの選択に迫られるので、購入する場合は先々どうするかよく考えてくださいね。

【20250312追記】
ピンセット型に再改造する記事に続きます。DT71 ピンセット型デジマルの救済(2)

| |

« プリンタヘッドのうがい(MG6230) | トップページ | 中華製温調はんだごて(4) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« プリンタヘッドのうがい(MG6230) | トップページ | 中華製温調はんだごて(4) »