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2023年11月

2023年11月15日 (水)

超低消費電流 LED 点滅回路

少し前に、こんな開発案件があった。
それは電池で駆動する装置で、できる限り電池もちをよくしたいという。

①通常は休止状態(sleep)で、人が操作すると動作状態に移行する
②操作が終わったら再び休止状態(sleep)に入る

とてもシンプルだが、ひとつだけ注文があった。それは、

◎操作の内容によっては、その後のsleep中にLEDを点灯(または点滅)させておきたい

というもの。
この装置はマイコンにESP32を使って設計したので、sleep中の消費電流は5μA程度まで抑えられる。
ところが、sleep中にLEDを点灯しておくとなると、LEDの消費電流が支配的となり、せっかくの低消費設計が活きなくなってしまう。
最近のLEDは効率がとても高く、少ない電流でもかなり明るい。高輝度タイプなら200~300μAで十分というものもある。
たとえば200μAのLEDをデューティ50%で点滅させると平均100μA。マイコンのsleep電流と比較すると、100μAでも大きすぎる。

さて、どうしたものか。
考えられるのはLED点滅のデューティを可能な限り小さくするくらいしかない。
汎用ロジックICを使えばできそうだが、もう少しシンプルにできないものだろうか……

そういえばむかーし、LED(当時は赤か黄色か緑しかなかった)を1.5V乾電池で点滅させるLM3909というICがあったっけ。ああいうのがあれば良いのだが……
と思い、ちょっと調べてみると、動作電流は0.6mA程度と書いてある。つまり600μAだ。話にならなかった……

何日か考えていたが、ふと、そういえばかなり昔に、2階建ての変わった形をした発振回路を見た記憶がある。たしか超低消費電流が特徴だったはず。
そう思い本棚を探すと、はたして記憶の奥底にあった回路が出てきた!
「トランジスタ進学教室」昭和50年発行 橋本順次著(図1)。これに掲載されていた”トラスコードオシレータ”(図2)がまさにそれだ!!

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図1.「トランジスタ進学教室」

Trascode_doc
図2.トラスコード・オシレータの著述

まずはLTspiceでシミュレーションしてみた。
シミュレーションした回路を図3に、シミュレーション結果を図4に示す。

Trascode_sch0 Trascode_sim
図3.シミュレーション回路              図4.シミュレーション結果

図4に示すとおり、きわめて細いデューティで発振している。

さっそくバラックで回路を組んで実験してみた。
LEDをどこに入れるかが考えどころで、2通りの入れ方を試してみた。

Trascode_sch1
図5.実験回路1

まずは図5の実験回路1のように下側のPNPトランジスタのコレクタに直列に入れるパターン。
LEDは秋月で購入した純緑色の超高輝度LED、OSG58A3133A-1MA(VF=2.8V)。
電流パターンは図6に示すようになった。

Trascode1
図6.実験回路1の電流パターン

電流値がきわめて小さいので、あまり正確に測定できていないが、これは回路に1kの電流検出抵抗を入れて、5μAの定常電流はアナログテスタで、1.6msのLED駆動部分はオシロで観測した。
最低動作電圧は3.0V、平均電流は5.66μAなので、たいへんよろしい\(^o^)/
実際に点滅している動画は次のとおり。

動画1.実験回路1によるLED点滅


次に、図7に示す実験回路2を検証した。電流パターンを図8に示す。

Trascode_sch2
図7.実験回路2


Trascode2
図8.実験回路2の電流パターン

この回路では、デューティは回路1の1/5程度と短くなったが、駆動電流が11.5mAと大幅に増えていて、平均電流は17.24μA。最低動作電圧は2.5V。
消費電流は回路1の3倍程度あるが、これでも十分低消費電流だ。点滅動画は次のとおり。

動画2.実験回路2によるLED点滅


以上により、トラスコードオシレータによるLED点滅回路では超低消費電流でのLED駆動が可能だ。
開発案件では実験回路1を採用した。
マイコンのsleep電流5μAに対して、LED点滅に要する電流が5.66μAなので、
かなりいい線なのではなかろうか(^-^)


今回参考にした「トランジスタ進学教室」という本は昭和50年11月20日発行となっている。ということはぼくが10歳か11歳の時に親に買ってもらった本だ。トランジスタの成り立ちから応用回路、それにCDSやホトトランジスタ、LED、サイリスタ、FETなどの説明もあり、驚くことにはこれは小学生向けに書かれている。小学生向けにしてはかなり高度で、当時のぼくにはまったく読みこなせていなかった。それどころか50年近く経った今になってお世話になっている。
今回実験したトラスコード・オシレータという回路は、この本の著者の橋本順次さんの発明だそうだ。念のため特許を検索してみたが出てこなかった。インターネットで検索しても出てこないので、忘れられてしまった回路なのか、あるいは何か別の名前になっているのかもしれない。

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2023年11月13日 (月)

トランジスタ技術の圧縮

先日、フジテレビ『世にも奇妙な物語』で、「トランジスタ技術の圧縮」が放映されましたね(^-^)
この物語は、今年CQ出版社の月刊誌「トランジスタ技術」通巻700号記念企画で掲載された、宮内悠介さんの短編小説です。
電子回路技術者なら、ああ、やったやった!!ぼくもやったよ!!!と納得するネタですし、電子技術に縁のない人にはちんぷんかんぷんな内容だったと思います。

まず、「トランジスタ技術」とは、古くから日本にある電子技術の月刊専門雑誌で、電子回路技術者でこれを知らないといったらたぶんその人はモグリじゃないかという位の、その筋では超メジャーな雑誌です。毎号最新の技術情報が掲載されるので、貴重な情報源として大事にとっておくような性質の雑誌です。
トランジスタ技術はたしか80年代から90年代にかけて厚さが最大になり、ピーク時にはおそらく4センチ以上あったんじゃないかと思います。なぜそんなに厚いかというと、広告が多かったからです。おそらく広告が全体の60%程度を占めていたんじゃないかと思います。
毎号大事にとっておくと、どんどん本棚が塞がっていき、そのうち床に平積みになり、平積みの山が増えて行き……という恐ろしいことになります。そこで、広告部分だけ取りのぞいて捨て、薄く製本してとっておくわけです。これがトランジスタ技術の「圧縮」です。

当時ぼくは高校の無線部に在籍していて、無線部では同じCQ出版社の「月刊CQ」を定期購読していました。思い出してみると、当時の月刊CQはトランジスタ技術よりさらに厚かったような気がします。
これは余談ですが(というか全部余談ですが)、ある日無線部室で届いた月刊CQを読んでいたら、広告ページの”サンハヤト”(基板メーカー名)が”サンハトヤ”に誤植されていて爆笑したおぼえがあります。
当時トランジスタ技術の内容は、高校生にとってはかなり敷居が高く、父が購読していたトランジスタ技術を時々めくる程度でした。父はその遙か前よりトランジスタ技術の読者で、物置には未圧縮のトランジスタ技術のバックナンバーがぎっしり入っていました。

ところが、おそらく2000年を過ぎたあたりからトランジスタ技術はだんだんと薄くなり始め、いまでは全盛期の1/2か、ヘタをすれば1/3近くまで薄くなってしまいました。これはなぜかというと、業者が広告を出さなくなったからです。インターネットの普及によって、広告の方法が大きく変わったことが原因です。そうなると広告収入に頼る雑誌は存亡の危機になりかねません。やはり古くからある「無線と実験」は、今年いっぱいをもって季刊化するとのことですし、ラジオ技術も読者の高齢化が進んでいて、いつどうなるかわかりません。
それでもいまある雑誌はここまで生き残ってきた強い種なのです。ぼくが子供のころから親しんできた「模型とラジオ」、「子供の科学」、「初歩のラジオ」、「ラジオの製作」などはどれもだいぶ前になくなってしまったし、マイコン(パソコン)黎明期に夢中になった月刊I/O(現在同名の雑誌あり)もなくなってしまいました。
トランジスタ技術はいまも技術者にとって最新情報を知るためになくてはならない雑誌です。日本の電子産業を支えている要素のひとつといっても過言ではないと思います。いつまでも存続してほしいと思っています。

ところで、テレビの「トランジスタ技術の圧縮」のラストは、ジローラモ氏が登場し、雑誌「レオン」を手に「パーティーはこれからだ」というオチがついていました。これは原作にはありません。
これはたしかに、テレビ的にはオチを付けたい気持ちはよくわかるのですが、レオンはちょっと違うんじゃないかなあ……
いや、ジローラモ氏が登場して意表を突いてておもしろいんだけど、雑誌の性質が違いすぎるんじゃないかと。
ファッション誌は、1冊丸ごと広告のような性質があるので、圧縮できないんじゃないかという気がします。
じゃあ、レオンのかわりに何かあるか?といわれたら、月刊CQじゃあんまりだし、月刊JR時刻表じゃあ、あまり圧縮できなさそうだし、ほとんど思いつきません(^-^;
やっぱり「トランジスタ技術」は特別な雑誌なんだ!という気がします。

テレビの進行役はタモリさんでしたね。タモリさんはアマチュア無線家なので、月刊CQは当然ご存じでしょうから、おそらくトランジスタ技術も知っているでしょう。そこまで考えるとなかなか妙ですね。

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2023年11月 7日 (火)

SSDAC128 and デジタルRIAAイコライザ デュアル基板(基板頒布あり)

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前回の記事で、SSDAC128_I2S基板に装着するデジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板を発表しました。

これは従来のSSDAC128_I2S基板のFPGA回路を、デジタルRIAAフォノイコライザに書き換えることで実現しました。
従来通りAmaneroCombo384からのUSB入力で信号再生可能ですが、AmaneroCombo384の代わりにデジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板DPEQ000を装着することにより、レコードプレイヤーから直接入力ができ、リアルタイムでの再生が可能です。
ただし、デジタルRIAAフォノイコライザとして使用するためにFPGAの書き換えが必要で、再びSSDACとして使用するには再度FPGAをSSDACに書き換える必要がありました。

今回は、SSDAC128_I2S基板で使用するFPGAを、10M08SCE144C8Gから10M08SAE144C8Gに変更することで、SSDACとデジタルRIAAフォノイコライザ回路の両方を実装し、電源投入時のDIPスイッチの設定で選択できるようにしました。生基板は従来と共通のSSDAC128_I2S基板です。

レコードファンにとってはかなり便利になったと思います。
また、デジタルRIAAフォノイコライザ・サブ基板DPEQ000にはカートリッジ出力をプリアンプで増幅した信号がRCAで出力されているので、レコードの生音をパソコンでリッピングするときに便利で、レコードの生音を使ったソフトウェアフォノイコライザの検証などに役立ちます。

この記事の下の方にすべての資料とFPGAのオブジェクトファイルを公開します。自力で製作したい方は次の手順で行ってください。

①回路を組む
回路図を参照して、回路を組んでください。
ユニバーサル基板でもできると思いますが、回路規模を考えると、生基板を購入されることをお勧めします。
FPGAは10M08SAE144C8Gです。従来の10M08SCE144C8Gではないので購入時に間違えないように注意してください。
SSDAC128_I2S基板は、従来と比較してジャンパ配線が一箇所、LEDと抵抗をそれぞれ3個ずつ追加となります。資料を参照してジャンパ線と部品の追加を行ってください。

②FPGAにオブジェクトファイルを書き込む

PCと製作した基板をダウンロードケーブル(USB-Blaster)で接続し、FPGAにSSDACとRIAAイコライザのデュアルブートが可能なオブジェクトファイル(SS_RIAA.pof)を書き込みます。このオブジェクトファイルはデュアル・コンフィギュレーションのオブジェクトなので、QuartusPrime Programmerで図1のように、CFM0,CFM1の2つにチェックを入れて書き込みます。


Ssdac_riaa_write
図1.QuartusPrime Programmerによる書き込み
     CFM0とCFM1にチェックを入れて書き込みます。


これで、電源投入時のDIP SWの設定によってSSDACとRIAAフォノイコライザが選択できる基板の完成です(^-^)

詳しい仕様は、以下の資料をご参照ください。

製作マニュアル(SSDAC128_I2SDual)
図表(SSDAC128_I2SDual)
取扱説明書(SSDAC128_I2SDual)
電気学会論文

製作マニュアル(DPEQ000)
図表(DPEQ000)
取扱説明書(DPEQ000Dual)

FPGAオブジェクトファイル(10M08SAE144C8G用)


次の5種類を頒布します。(すべて税、送料込み)

①全部品実装基板セット(SSDAC128_I2SDualとDPEQ000のセット) 77000円
・全部品を実装し、動作確認済みの基板セットです。
・AK4490にはAK4490REQを使用しています。
・Amanero COMBO384は含まれません。
・すべて手実装です。
・DPEQ000のOPAMPはNJM4556AD。
・納期:2週間程度(受注生産)

②全部品実装基板(SSDAC128_I2SDualのみ) 72000円
・全部品を実装し、動作確認済みの基板です。
・すべて手実装です。
・納期:1週間~10日程度(受注生産)

③書き込み済みFPGA実装基板SSDAC128_I2SDual 27000円
・書き込み済みFPGAのみ搭載した基板です。
・すべて手実装です。

・納期:1週間程度(受注生産)

④全部品実装基板セット(動作確認済み)、AmaneroCOMBO384、電源トランスセット 98000円
・全部品を実装したSSDAC128_I2S基板、DPEQ000基板およびAmaneroと電源トランスのセットです。
・すべて手実装です。
・AC電源ケーブルおよび電源スイッチ、ヒューズ等はご用意ください。
・納期:2~3週間程度(受注生産)

⑤生基板セット 4700円
・AK4490EQおよびAK4490REQに対応したSSDAC128_I2SとDPEQ000の生基板セットです。
・生基板のみの販売です。FPGA用pofファイルをダウンロードしてお使いいただけます。
・納期:3~5日程度


購入ご希望の方は表題に「SSDAC_RIAA基板頒布希望」とお書きのうえ、
dj_higo_officialアットhigon.sakura.ne.jp(アットを@に換えて)までメールにて
お申し込みください。
※ご希望のセット番号と、お名前、ご住所、電話番号をお書きください。
折り返し、代金振込先等のご案内をお送りします。

製造・頒布はSLDJ合同会社が行います。

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