超低消費電流 LED 点滅回路
少し前に、こんな開発案件があった。
それは電池で駆動する装置で、できる限り電池もちをよくしたいという。
①通常は休止状態(sleep)で、人が操作すると動作状態に移行する
②操作が終わったら再び休止状態(sleep)に入る
とてもシンプルだが、ひとつだけ注文があった。それは、
◎操作の内容によっては、その後のsleep中にLEDを点灯(または点滅)させておきたい
というもの。
この装置はマイコンにESP32を使って設計したので、sleep中の消費電流は5μA程度まで抑えられる。
ところが、sleep中にLEDを点灯しておくとなると、LEDの消費電流が支配的となり、せっかくの低消費設計が活きなくなってしまう。
最近のLEDは効率がとても高く、少ない電流でもかなり明るい。高輝度タイプなら200~300μAで十分というものもある。
たとえば200μAのLEDをデューティ50%で点滅させると平均100μA。マイコンのsleep電流と比較すると、100μAでも大きすぎる。
さて、どうしたものか。
考えられるのはLED点滅のデューティを可能な限り小さくするくらいしかない。
汎用ロジックICを使えばできそうだが、もう少しシンプルにできないものだろうか……
そういえばむかーし、LED(当時は赤か黄色か緑しかなかった)を1.5V乾電池で点滅させるLM3909というICがあったっけ。ああいうのがあれば良いのだが……
と思い、ちょっと調べてみると、動作電流は0.6mA程度と書いてある。つまり600μAだ。話にならなかった……
何日か考えていたが、ふと、そういえばかなり昔に、2階建ての変わった形をした発振回路を見た記憶がある。たしか超低消費電流が特徴だったはず。
そう思い本棚を探すと、はたして記憶の奥底にあった回路が出てきた!
「トランジスタ進学教室」昭和50年発行 橋本順次著(図1)。これに掲載されていた”トラスコードオシレータ”(図2)がまさにそれだ!!
図1.「トランジスタ進学教室」
図2.トラスコード・オシレータの著述
まずはLTspiceでシミュレーションしてみた。
シミュレーションした回路を図3に、シミュレーション結果を図4に示す。
図3.シミュレーション回路 図4.シミュレーション結果
図4に示すとおり、きわめて細いデューティで発振している。
さっそくバラックで回路を組んで実験してみた。
LEDをどこに入れるかが考えどころで、2通りの入れ方を試してみた。
図5.実験回路1
まずは図5の実験回路1のように下側のPNPトランジスタのコレクタに直列に入れるパターン。
LEDは秋月で購入した純緑色の超高輝度LED、OSG58A3133A-1MA(VF=2.8V)。
電流パターンは図6に示すようになった。
図6.実験回路1の電流パターン
電流値がきわめて小さいので、あまり正確に測定できていないが、これは回路に1kの電流検出抵抗を入れて、5μAの定常電流はアナログテスタで、1.6msのLED駆動部分はオシロで観測した。
最低動作電圧は3.0V、平均電流は5.66μAなので、たいへんよろしい\(^o^)/
実際に点滅している動画は次のとおり。
動画1.実験回路1によるLED点滅
次に、図7に示す実験回路2を検証した。電流パターンを図8に示す。
図7.実験回路2
図8.実験回路2の電流パターン
この回路では、デューティは回路1の1/5程度と短くなったが、駆動電流が11.5mAと大幅に増えていて、平均電流は17.24μA。最低動作電圧は2.5V。
消費電流は回路1の3倍程度あるが、これでも十分低消費電流だ。点滅動画は次のとおり。
動画2.実験回路2によるLED点滅
以上により、トラスコードオシレータによるLED点滅回路では超低消費電流でのLED駆動が可能だ。
開発案件では実験回路1を採用した。
マイコンのsleep電流5μAに対して、LED点滅に要する電流が5.66μAなので、
かなりいい線なのではなかろうか(^-^)
今回参考にした「トランジスタ進学教室」という本は昭和50年11月20日発行となっている。ということはぼくが10歳か11歳の時に親に買ってもらった本だ。トランジスタの成り立ちから応用回路、それにCDSやホトトランジスタ、LED、サイリスタ、FETなどの説明もあり、驚くことにはこれは小学生向けに書かれている。小学生向けにしてはかなり高度で、当時のぼくにはまったく読みこなせていなかった。それどころか50年近く経った今になってお世話になっている。
今回実験したトラスコード・オシレータという回路は、この本の著者の橋本順次さんの発明だそうだ。念のため特許を検索してみたが出てこなかった。インターネットで検索しても出てこないので、忘れられてしまった回路なのか、あるいは何か別の名前になっているのかもしれない。
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