YAHAアンプの味見2
この記事は7/28YAHAアンプの味見の続編です。
【20220824追記】
前回の記事に掲載したLTSpiceによるYAHAアンプのシミュレーションは、その後の調査によりグリッドのバイアス電圧が生じていないことがわかりました。おそらく使用した真空管のSPICEモデルでは初速度電流が生じていないことが原因ではないかと思われます。
そのためカソードにバイアス電圧を挿入して再度シミュレーションしてみました(図A)。こちらの方が実際に組んだ回路に近い動作になっていると思います。
図A.YAHAアンプのシミュレーション(カソードバイアス付き)
前回の記事では、出力バッファにトランジスタのエミッタホロワを一段つけて動作確認したが、どうもこれでは真空管の負荷が重すぎるらしいことがわかったので、この点を考慮して再検証した。
エミッタホロワをダーリントンにするか、あるいはMOSFETに置き換えるか考えたが、今回はMOSFETを使ってみることにした。
今回検証した回路を図1に示す。
図1.今回検証した、MOSFET出力バッファのYAHAヘッドホンアンプ(片チャンネル)
※LRチャンネルのトータルの消費電流は390mA。
MOSFETはAO3406を使用した。これはVthが2V程度で、IDが3A以上、On抵抗が50mΩ程度と、電源のON/OFFなどの用途に重宝するので部品箱に常備してある。秋月で販売しているAO3400でも代用できると思う。パッケージがSOT-23なので変換基板を使用した。
今回は回路の改良に加えて、USB PDから電源を取る検証をあわせて行った。
USB PDはUSB-Cから電力を供給する仕組みで、5V、9V、12V、15V、20Vから選択でき、最大100W程度の供給が可能だ。
今回のYAHAアンプは12V電源なので、USB PDから12Vを供給すれば動作可能だ。
USB PDを使うには、これに対応したUSB電源とケーブル、それにUSBデコイと呼ばれるPDトリガーデバイスが必要だ。
今回使ったUSB PD対応電源と、USBデコイ基板を写真1~写真3に示す。
写真1.USB PD対応電源アダプタUGREEN AceCube 30WとUSBデコイ基板
写真2.USBデコイ基板 IP2721という専用のデバイスが使われている
写真3.USBデコイ基板裏面 基板の種類とショートパッド(表面)により、電圧が選択できる。
最初に、USB PD出力を12Vに設定し、これでアンプを駆動してみたが、ハムノイズと、ヘリコプターのようなパタパタというノイズが乗ってしまい、実用には程遠い結果となった。平滑コンデンサで対策できるレベルではなかった。アンプにつないだ状態の電源波形を図2に示す。
次に、USB PD出力を15Vに設定し、図3に示すレギュレータ回路をつけて12Vを生成し、これをアンプに供給したところ、ノイズは問題のないレベルまで抑えられた。アンプ接続状態での電源の波形を図4に示す。
図2.USB PD12V出力のノイズ
図3.USB PD15V出力に追加した12Vレギュレータ回路
図4.レギュレータ回路を使用した電源波形
今回は図1のアンプ回路に対して、USB PD電源アダプタ15Vから12Vレギュレータで生成した電源を使用して以下の通り評価を行った。
負荷33Ωでの100Hz、1kHz、1kHz方形波、100kHzの再生波形を図5~図8に示す。
図5.100Hz75mVrms入力時の出力波形(黄色が出力)
図6.1kHz75mVrms入力時の出力波形(黄色が出力)
図7.1kHz方形波入力時の出力波形(黄色が出力)
図8.100kHz75mVrms入力時の出力波形(黄色が出力)
今回はプレート抵抗を20kに変更し、出力バッファをMOSFETに変えたことで、ゲインが14.5dB@50Hz、17.13dB@1kHz、15.54dB@100kHzとなった。1kHzを基準に、下は50Hzで-2.63dB、上は100kHzで-1.59dBという周波数特性が得られた。周波数特性を図9に示す。
図9.周波数特性
最大出力は、図10に示すとおり1.1Vrms@33Ωで波形がクリップするので、37mW@33Ω。
図10.クリップ波形 クリップは1.1Vrms@33Ωなので、最大出力は37mW。
ひずみ率はWavegeneとWavespectraを使って測定した。
すでに公表していたひずみ率は10kHzで6%を超えていたが、測定系に問題があったため再測定した。測定系の問題とは、Wavegeneのサンプリング周波数が44.1kHzになっていたことで、今回は96kHzにしてすべて再測定した。ひずみ率THD+N(%)を図11に示す。
図11.THD+N測定結果(33Ω負荷)
※実用域ではおおむね1%以下、10kHzでは6%超と高め
図12に、およそ0.5mW時1kHz@33Ωの出力FFTを示す。ひずみは2次が支配的。
図12.0.5mW時1kHz@33ΩのFFT。2次ひずみが支配的。
試聴は前回と同じくスーパーサンプリングSDプレイヤーSSSDP4490をソースに、ヘッドホンHDJー1500で行った。試聴の様子を写真4に示す。
写真4.バラックで組んだYAHAアンプの試聴
今回は回路の改良と電源ノイズの対策を行ったため、前回よりも大幅に音質が改善した。
プレーヤー直接の場合と比べ音が厚く聞こえるのは、おそらく真空管シングルアンプの特徴である偶数次ひずみが付加されるためか。
実使用に十分耐えうる音質が得られ、USB PDからの電源供給も可能であることから、実用的なポタアンが製作できる可能性が確認できた。
12BH7A YAHAヘッドホンアンプの製作 に続く
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