リチウムイオン電池はリハビリで復活できるか
デジカメの予備や、実験用にストックしておいたリチウムイオン電池が、思いのほか使う機会が少なく、充電状態で長期保存してしまったために、劣化させてしまい無駄になることがよくある。
もったいないのでなんとか復活させられないか、といった話題がネット上に散見される。わりと多く見られるのが、徐々にリハビリ充放電をしたらふたたび使えるようになったというものだ。本当だろうか。
そこで、実際にリハビリ充放電に効果があるかどうか検証したので報告する。
今回対象にしたのは組み込み機器や携帯機器に使おうと買ってストックしてあったボタン型リチウムイオン電池LIR2450だ。在庫のうちの1個が開放電圧0.3V程度になってしまい瀕死の状態なので、これを試験用電池とした。
実験用電源装置で、電池の温度と電流の様子を見ながら、何回か手作業で充放電をしてみたところ開放電圧は4V程度まで回復したが、放電させてみると容量が全くなく、負荷をつないだ瞬間に電圧が下がるので、やはり劣化状態だ。
この電池に対して根気よく繰り返し充放電を行ったら、はたして性能は回復するだろうか。手作業で行うのは面倒なのでバラックで装置を組み立てた。
写真1.リチウムイオン電池リハビリ回路基板
黄色い縁取りのボタン電池が今回の患電池。右にあるのがPICマイコンとLCD表示器。
図1.リチウム電池リハビリ回路図
対象のリチウムイオン電池は図中のBatt。
回路は図1に示すとおりで、目的は充放電を繰り返し行い、
①充放電1サイクルに要する時間(回復すれば時間は増加する)
②無負荷、有負荷時の電圧(回復すれば電圧差は少なくなる)
が調べられるように液晶に表示し、加えてトータル試験時間も表示する。
今回の対象電池は、LIR2450というボタン型リチウムイオン電池で、容量は120mAh。少々厳しめに、充電電流を200mA、放電電流を370mA(3.7V10Ω負荷)として、繰り返し充放電試験を行う。
簡単に回路の説明をする。
充電電流はマイコンのDACから出力された制御信号をQ1Q2で構成するカレントミラーで電流変換して、DAC出力電圧に比例した定電流で充電するようにする。このMOSFETはAO3406というSOT23パッケージのもので、IDの最大定格は3.6Aだ。電源のON/OFFなどが主な用途だと思われるので、カレントミラーを組むのは例外的な使い方だと思う。パッケージが小さな表面実装用なので、熱結合はせずはんだで近接的につながっているだけだ。それでも今回の用途では問題なく動作した。
充電はcharge信号でQ3をONして7Vを供給し、上で説明したカレントミラーで定電流制御をする。つまりQ3→Batt→Q2→R2の方向に充電電流が流れる。
次に放電回路はDischarge信号でQ5をONしてD1→Batt→R3→Q5の方向に放電電流が流れる。charge信号とDischarge信号は、同時にONするとQ3,Q5に貫通電流が流れて破壊する可能性があるので、同時にONしないように注意する。逆流用のD1は、Q2のボディダイオードでもいいような気がするが、子供が見てもいいようにお行儀よい設計にした。放電電流も充電と同じくDAC制御型のカレントミラーでマイコンから制御できるようにすることも考えたが、手持ちのマイコンでDACを2つ以上積んでいるものがなかったので今回は単に抵抗負荷(R3)とした。
電池電圧の測定は、電池の両端をADC1、ADC2で取り込んで差を取るつもりだったが、この回路ではADC2がD1の電圧降下分GNDよりもマイナス電位になってしまうためこのままではAD検出ができず、変化だけ見られれば良いことにして、けっきょくプラス側のADC1だけ使うことにした。充電電流もADC3で検出できるようにしているがこれも使わなかった。
マイコンは部品箱にあったPIC16F1503を使い、プログラムはXC8でコンパイルした。1503は秋月で85円で買えるお気に入りのマイコンだ(^-^)
シーケンスは、まず充電(200mA)を開始し、開放電圧が4.1Vになったら放電モードに切り替える。放電モードでは10Ωを負荷として平均約370mAの放電を、開放電圧が3Vになるまで行う。3Vまで放電したら再び充電に入る。電池電圧の測定は充放電両モードとも2秒ごとに行う。
液晶には、①開放電圧 ②10Ω負荷電圧 ③充放電1サイクルに要した時間(秒) ④積算試験時間(秒)を表示した。
まず、手持ちの電池のうち、劣化していないものは、
・開放電圧と負荷時(10Ω)電圧の差がおよそ0.5~0.7V(ダイオード分を差し引くと0.2~0.4V)
・充放電1サイクルに要する時間がおよそ15分ほど
これに対し、今回試料とした劣化電池は試験開始時には
●開放電圧と負荷時(10Ω)電圧の差がおよそ0.8~1V(ダイオード分を差し引くと0.5~0.7V)
●充放電1サイクルに要する時間およそ2分
試験開始から数時間後には、電圧差、サイクル時間ともにほんの少し改善したように見えたが、試験を継続するとしばらく横ばい状態がつづき、試験時間が2日(48時間)を過ぎる頃には劣化が始まり、試験終了の4日目には、
●開放電圧と負荷時(10Ω)電圧の差がおよそ1~1.2V(ダイオード分を差し引くと0.7~0.9V)
●充放電1サイクルに要する時間およそ1分20秒
まで劣化してしまった。つまり結論としては、
今回の充放電リハビリでは、電池を復活させることはできなかった
ということです(^-^;
うまくいったらソースコードも公開するつもりだったんですけど……
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