無帰還電流駆動アンプの製作
きょうは無帰還電流駆動パワーアンプ製作の詳細です。
図1.アンプ外観
アンプのシャーシは左右のヒートシンクに底板とL型アルミアングルを取り付ける構成になっています。信号の流れを考えて入力端子と入力ボリュームを中央に、スピーカー端子を左右に配置しています。
図2.ヒートシンク
ヒートシンクはヤフオクで1個800円のものを左右チャンネル各1個で計2個使いました。サイズは55x60x230で、A級で20W強の出力を得るためのアイドリング電流を1A流すにはおそらくこれでギリギリです。
図3.アンプ回路
図3はアンプ部の回路です。
左右チャンネルそれぞれをサンハヤトのユニバーサル基板AT-1上に配線していきます。
Q1,Q9およびQ2,Q10はヒートシンク上に組み付けるため基板上には配置しません。また、VR1は入力ボリュームで、好みに応じてシャーシに取り付けます。ぼくは2連のデテントボリュームを使っています。
図4.アンプ基板
図4はアンプ基板の写真です。ほぼ回路図と同じ部品配置になっています。左側にJ1.J2、次の列にJ3、D1~D4、J4とVR2、その次の列はQ7,Q8、そのまた次がQ3,Q4とQ5,Q6そして右側にR9,R10とC3~C6です。
回路と配線の見通しをよくし、変更が簡単におこなえるように、部品実装、配線ともにパターン面としました。
図5.カレントミラー結線図
図6.カレントミラーの熱結合と空中配線
Q3とQ4、Q5とQ6はカレントミラーで、接着剤で接着して熱結合するとともに、図5の回路になるようにあらかじめ空中配線しておきます。
図7.Q1,Q9(Q2,Q10)の熱結合とヒートシンクへの取り付け
図7にQ1,Q9(Q2,Q10)の熱結合とヒートシンクへの取り付けを示します。熱結合に金具を使っていますが、接着してもOKです。接着する場合は2液混合タイプのエポキシ接着剤を使用しますが、速乾性のものよりも24時間硬化タイプなど乾くのに時間がかかるものの方が、耐久性、耐熱性などにすぐれているようです。
絶縁シートには伝熱性がすぐれた信越化学のTC-30BGを使用しています。(千石電商)
次に電源の配線および保護回路です。
図8-2.保護回路基板写真
図8に保護回路と電源の配線を示します。
保護回路はLRチャンネル共通としました。現時点ではクロストークは測定してみていないのでなんともいえないのですが、8Ωの負荷に対して保護回路の入力が24kと47uFですから無視できるレベルではないかと考えています。
保護回路作動時は、上段の回路の24Vリレーによりスピーカー端をショートするとともに中段の回路によりAC100Vを遮断します。
スピーカーショートのリレーは、非通電時にスピーカー端が短絡するように接続します。スピーカー端は片側がアンプ出力、もう一方がGNDで、GNDは保護回路も共通ですから、スピーカーのアンプ出力側だけ引き込んできてGNDは保護回路上にあるものをそのまま使います。
AC100Vの遮断はSSR(ソリッドステートリレー)によっておこないます。これはSSRキット40Aタイプという秋月で購入したものをそのまま使用しています。
このような回路では電源のON/OFF時にちょっとした工夫が必要です。
電源ON時は、SW1によって一瞬AC100Vを通電することでSSRに電源を供給し、フォトトライアック内部のLEDに種火を入れることでおこないます。
逆に電源OFF時はSW2によって、フォトトライアックのLEDを駆動しているQ7のベースを一瞬GNDに落とし、種火を吹き消すことでおこないます。
SW1/SW2はNKKのトグルスイッチM-2028を使用しました。これは(ON)-OFF-(ON)つまりバネ付きの中立タイプで、レバーを上下のどちらに倒しても一瞬ONする接点が2回路入っています。これによりSW1/SW2を1個のトグルスイッチでまかなっています。ぼくは上に倒すとON、下に倒すとOFFになるように構成しました。
保護回路基板の写真を図8-2に示します。5600uFのケミコンは基板の裏側に配置しています。またSSRキットの小基板はシャーシ後ろ側のヒューズホルダの近くに配置しています。
次に電源ですが、小型軽量なA級アンプを構成するためにスイッチング電源を使っています。もちろん通常のトランス電源でもかまいません。アイドリング電流はピーク電流の半分とすると、アイドリングを1Aとするにはピークで2A、ステレオで4Aの電源が必要ですがこれはフルパワーで鳴らす場合ですから、とりあえずは3A程度確保できればいいのではないでしょうか。
今回の製作ではイータ電機のBNC24SA-U1(24V/3.5A)を2台使用しました。
AC入力のヒューズをどれくらいにすればいいのかは悩ましいところです。BNC24SA-U1は内蔵ヒューズが5Aなのですが、それならAC100Vの入力のヒューズは2台分だから10Aでいいかというとそれだと大きすぎる感があります。ラッシュカレントをどう考えるかなのですが、根拠なく√2倍の7Aにしました。今のところ6Aでも飛んでいないので6Aか7Aといったところではないでしょうか。
回路図中Ferrite Coreの記述が3カ所ありますが、これはスイッチング電源の高周波ノイズを除去する目的です。
図10.秋月で販売しているフェライトコア
図9にフェライトコア挿入の様子を示します。
フェライトコアは秋月で販売しているもののうち図10の灰色のECDN906088を使用しました。黒いECDN906087よりほんの若干ですがすぐれているようです。
図13.スイッチング電源出力部およびアンプ電源入力部にフェライトコア挿入
図11~図13にフェライトコアの有無とアンプ出力のノイズを示します。
測定条件は、アンプ入力をGND短絡、出力は8Ωダミーロードとし、ダミーロード端を観測しました。
このようにフェライトコアの効果は絶大です。
電源の種類によってスイッチング電源出力部の最適なフェライトコアの入れ方がちがうようです。ぼくは3種類の電源で試してみたところ次の結果になりました。
・BNC24SA-U1(3.5A) (※今回使っている電源です。)
±24V、GND、FGの計4本をフェライトコアに通します。
・ESS75-24(3.2A) (シールドケースに納められた高級品)
±24V、GNDの計3本をフェライトコアに通します。FGは接続しない方が良い結果となりました。
・CFM60S240(2.5A) (若松で1個1580円で購入)
±24V、GNDの計3本をフェライトコアに通します。FGは接続しますが、フェライトコアには通しません。
このようにベストなフェライトコアの使い方が電源によってちがいますので、試行錯誤が必要です。
シャーシアースは、図8のChassis GNDのポイントから接続します。
すべての配線、組み立てが終わったら間違いがないかよく確認して、VR2をセンターに、入力をGNDにショート、スピーカー出力に8Ωのダミーロードを接続し、アンプ基板のR9またはR10の両端に電圧計をつなぎ電源を入れます。この電圧が0.7V前後になっていればまずは安心です。この電圧は温度上昇とともに下がっきて、およそ0.5~0.55Vに落ち着けばOKです。ぼくが製作したアンプの実測値は0.55Vで、このときのアイドリング電流は0.55/0.47=1.17A、このときのA級最大出力は2x1.17^2x8=22Wです。25WをA級で得るならアイドリングは1.25A、アイドリングが0.79AならA級出力は10Wです。
もしアイドリング電流が狙った値にならない場合はアンプ回路のR7,R8を変えてみてください。これらの抵抗値を小さくするほどアイドリング電流は増加します。30~47Ωくらいのあいだで最適値が見つかると思います。
次に出力のダミーロード端が0VになるようにVR2を調整します。30分から1時間かけて追って調整をすればだいたい落ち着くと思います。このオフセット調整はダミーロードを1kΩ程度にすると、より精度の高い調整が可能です。
もうこのタイミングですでにいちどは保護回路が作動しているかもしれませんが、保護回路のチェックをおこないます。入力に1.5Vの電池を接続して徐々に入力VRをあげていくと保護回路が作動し、リレーがOFFになると同時に電源が落ちます。電池の極性を逆にした動作も確認してください。保護回路が正常であればスピーカー端がおおむね±2~±3Vで動作します。
図15.THD+N特性(Rチャンネル)
図14~図16および表1に測定結果を示します。
図14~図16はシャーシ搭載状態で8Ωダミーロード負荷による測定、出力インピーダンスは試験基板で負荷1kΩ(100Hz、1KHz)、200Ω(10KHz)のON/OFF法での測定です。
ひずみ特性は無帰還電流アンプでここまで追い込めるということがわかりました。デバイスの選択や回路の工夫でまだ改善の余地があるのかもしれませんが、まずは満足な結果になったと思っています。
周波数特性も今回のデバイス変更によって改善しました。0,-3dB特性は0~400KHzです。
出力インピーダンスも改善が見られました。100Hzと1KHzは近い値になり、10KHzも前回回路の60Ωより大幅に改善しました。
ここ数日このアンプで音楽を聴いていますが、以前に比べてよりなめらかになり心地よく鳴っています。音が澄んでボーカルが前に出てきた印象がします。
シンプルなフルレンジスピーカーで音楽を楽しみたい方に自信を持っておすすめします。
注)ネットワーク入りのマルチウェイスピーカーには使用できません。
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