電流アンプの改良
前回発表したオリジナルの電流駆動パワーアンプはその後もじわじわと進化しています。
まずは最新の回路を図1に示します。
図1.電流アンプ最新回路図
今回は入力バッファをFETに変更、バイアス回路のダイオードを2本に半減、中段にR4を追加、および定数見直しをおこないました。
この回路のアイドリング電流IDLおよび電圧ゲインGvの計算方法は次の通り。
IDL = (VB/R7) * (R5/R9) = (0.65/62) * (47/0.47) = 1.05 (A) (実測値は1.06A)
※VBはD1のVF=0.65V
Gv = (2/(2*R4+R7)) * (R5/R9) * Rsp = (2/(2*47+62)*(47/0.47)*8 = 10.26 (倍)
※Rspはスピーカーインピーダンス8Ω
旧回路ではR4の抵抗がなくGNDに直結にしていましたが、今回はゲイン設定自由度を高めるためにR4を追加しました。ところがやってみて気がついたのですが、±の共通電流がR4に流れるため±信号がPP合成され2次ひずみが打ち消されます。
従来のR4=0の状態ではPP合成されずに±が別々に動作しているので、この段では2次ひずみの打ち消しができないのです。
旧回路を図2に示します。ここに示す旧回路は、前回発表のものに対して入力バッファをFETに変更し、一部定数変更をおこないました。
図2.旧回路
旧回路では位相補償のコンデンサC1に1800PFを使っていましたが、今回の新回路では820PFできれいに補償されました。終段カレントミラー部の電流比を変えた影響でしょうか。
図4.旧回路ひずみ特性
全体としてひずみは半分とまではいきませんでしたが1/√2程度には減少しています。
ただ単純にひずみが減少しただけではなく、今回中段のPP合成を追加したためにひずみ成分が変わったようです。
図4の旧回路のひずみ特性は、典型的な真空管A2級シングルアンプの特性とそっくりで、このかたちは2次高調波ひずみ主体の特徴であるといわれています。それにくらべて図3に示す今回の新回路の特性はかなり景色がちがっています。
そこで、2次~5次までの高調波ひずみ成分を測定してみました。図5に示します。
図5.新旧ひずみ成分比較
おもしろいことに、新回路の方がトータルのひずみ率が低いのですが、3次ひずみ量が2次ひずみに拮抗しています。旧回路ではほとんど2次ひずみが支配的です。
一般的に2次、4次ひずみなどはそれほど害はなく、奇数次ひずみは不快な音がするといわれています。これは周波数が2倍になると音階がちょうど1オクターブ上がることから、2次,4次ひずみなどは元の音に対して1オクターブ、2オクターブ上の音が混ざるということを意味します。一方奇数倍の周波数は音階上不協和なところに音が出てくることになります。なので、奇数次ひずみは聴感上有害とされています。
さて、一般的にA級シングルアンプは2次ひずみが支配的で3次以降の奇数次ひずみはほとんどないことが特徴です。一方プッシュプルアンプでは2次ひずみが打ち消されるものの、3次ひずみは逆に増加するといわれています。今回もまさにそうなりました。
多少ひずみ率が高くても2次主体ということを重視するか、全体のひずみ率を重視するかという選択肢になります。
今回の新回路もここ数日聴き込んでいますが、いい音で鳴っていますので、ぼくとしては新回路の方を採用したいと思います。
新旧スペックの比較表を表1に示します。
出力インピーダンスは電流アンプなので高いのですが、高域で激減するのが謎です。
帰還型の電流駆動アンプでもこれと似た傾向が出るのを見たことがあります。
前回アンプの会例会で発表した際に、興味があるので製作してみたいという方がいらっしゃいました。製作上の注意点を書いておきます。
まず、電源ですが24Vのスイッチング電源を二つ、±構成で使用しています。電源の平滑用に4700μF/50Vを別基板に配置しています。スイッチング電源を使用する場合は高周波のスイッチングノイズが電源ラインに乗るので、アンプへの供給ラインにフェライトコアを使ってノイズを除去しています。フェライトコアの入れ方は電源のタイプやレイアウトによって最適な方法が変わるのでカットアンドトライが必要です。スイッチング電源には通常過電流保護がついていますのでアンプには保護回路を付けていません。アナログ電源を使用する場合は保護回路を付けた方がいいかもしれません。電流アンプの場合はミュート時にスピーカー端短絡というやり方ができますので、リレー接点の気持ち悪さからは解放されます。
アイドリングは計算上は1.05A狙いで、A級で20W弱です。上の回路定数で満足な結果にならない場合はR7、R8の62Ωを変えてみてください。この回路では24V電源で最大25W程度、このときのアイドリングは1.25Aです。放熱には余裕を持ってください。
出力オフセット調整は8Ωのダミーロードを接続した状態でVR1によっておこないます。温度が落ち着くまで追調整をして追い込んでやればおおむね0.1V以内に納めることができます。また、図中に示した熱結合は必ずおこなってください。
部品は秋月と若松で入手できます。
無帰還電流駆動パワーアンプという滅多にないアンプです。音もとってもいいです。
ぜひお試しください。
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