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2016年2月

2016年2月27日 (土)

ひずみの考察

ショットキーを使った回路について先ほど書いたばかりですが、ひずみについての考察をここにわけて書きたいと思います。
一連のアンプ実験で、2次、3次ひずみの含有率が調整できることがわかりましたが、ではどういう配分にするのがいいのかということを考えてみたいと思います。

 

一般的に2次高調波ひずみはそれほど害はないが、奇数次高調波ひずみは不快であるからぜひとも減らすべしということが言われます。これは、2次4次などはもとの音の1オクターブ、2オクターブ上の音だからこの成分が混ざっていても不快感はあまり感じられず、3次、5次などの奇数次高調波は音階にないところで不協和となるので不快感があるということです。
音響の世界では、ひずみに関してヒトの耳の検知限界が2次で0.7%、3次で0.2%との説があります。それならばさきほど発表したショットキー回路によるひずみ成分比は思いがけず理にかなってるのではないかとも思われます。

 

そもそも現代の音楽における音程のチューニングは平均律といって、1オクターブで周波数が2倍となることから1オクターブ12音の各音を等しく2の12乗根倍ずつ区切っていくというやり方です。2の12乗根は当然無理数ですから、基準のA=440Hzとその倍音以外の音の周波数はすべて無理数となります。

 

ところがよく考えてみると、古典音楽の調律で純正律というものがありこれを調べてみると、各音の周波数が表1のようになっています。

 

            表1.純正律周波数表
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1の下に続く分数は、ドの音に対する周波数比率です。
すべての音が有理数周波数となり、しかも元の音の3倍や5倍となる周波数があります。それらを色分けしてみました。
3倍音が存在する場合はすべて5度の音、5倍音がある場合は長3度になっています。おもしろいのは264Hzのドの音の5倍音が440Hzのラの音の3倍音に一致してる点です。
通常、根音に対して5度の音というのはほとんどのコードに出てくる組み合わせで、いわゆるルート5度という音の組み合わせです。ルート5度が崩れるのは♭5や♯5になるパターンで、よくあるのはキーCのBm7-5とか、あとは7th系のスケールでしょうか。まあ、5度にならないパターンもあるにはあります。
話がそれましたが、そういうわけで、純正律であればぴったり奇数次の音が出てきます。ということは、純正律でチューニングされた音楽を聴く場合は奇数次高調波ひずみが出てもさほど気にならないのではないか?ということです。

 

結論として平均律で録音されたほとんどの音楽を聴く場合は3次ひずみを減らすことを重視し、純正律によって演奏された音楽を聴く場合にかぎっては3次比率が高くてもさほど気にしないでとにかくひずみを下げればよい、ということになるかもしれません。(ホントかいな?)

 

ところで、「2次ひずみが3次ひずみを打ち消す」という記事を見つけました。参考にしてください。

 

(追記)

 

サルサで使われるコンガも2個セットで使う場合、ドとソつまりルート5度にチューニングする場合が多いそうです。

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電流アンプ追加評価

電流アンプの追加評価をおこないました。
きょうはバイアス用のダイオードにショットキーを使用して評価しました。従来から使っていたスイッチングダイオード1S2076(VF=0.65V実測値)にくらべ、VFが0.225V(実測)と低いため細かい定数決めができるようになります。
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        図1.ショットキーダイオード使用回路


ネットを検索すると、ショットキーに替えたら音がよくなったなどの記事が散見されますが、どうなんでしょうね。ぼく個人としてはショットキーはVFが低く高速であるという利点がある反面、逆方向の漏れ電流が非常に大きくあまりさわやかな印象ではありません。ちなみに1S2076の漏れ電流は100nAなのに対し、1S4は0.2mAもあります。ダダ漏れです(^-^;
今回ショットキーを試してみた理由は、±信号の共通抵抗R4の比率を上げることでひずみ率を改善できないか、ということです。従来比率R7:R4=62:47を、ショットキーを使うことで20:62まで増加させました。ショットキーを使用したひずみ特性を図2に、前回発表した新回路のひずみ特性を図3に示します。

2月29日注記
ひずみ特性のグラフで10KHzの特性が大きくディップしているのは測定系に問題があったことが原因と思われるので、グラフを差し替えます。旧グラフを図Aとして残します。また前回発表の図3については回路を解体してしまい再測定ができないため、10KHzのデータは無視という扱いにします。(100hz、1KHzのデータは再測定でもほぼ再現しているため)


Asio

         図2.ショットキー使用回路(差し替え)



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        図A.ショットキー使用回路(旧グラフ)



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       図3.新回路(前回発表:10KHzは無視)



出力が高い領域で若干の改善が見られます。
ショットキー回路、新回路、旧回路の1KHz、6Vrms出力時のひずみ成分を比較したグラフを図4に示します。

Photo_3

         図4.ひずみ成分比較



前回の測定結果では、旧回路では2次ひずみが支配的で、新回路では全体のひずみは減っているものの3次ひずみの比率が増えていました。
今回のショットキーを使用した回路ではトータルのひずみはさらに減少しましたが、2次ひずみの比率は盛り返しています。とてもいいバランスのような感じがしますがどうでしょうか。

この回路形式では、R4の値の比率によって2次、3次ひずみの配分が調整できるということがわかりました。とても興味深いことだと思います。

2次ひずみによる3次ひずみの打ち消し効果や、2次、3次ひずみの配分に対する考察もあるのですが、重要な話だと思われるので次回にわけて書きます。

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2016年2月26日 (金)

電流アンプの改良

前回発表したオリジナルの電流駆動パワーアンプはその後もじわじわと進化しています。
まずは最新の回路を図1に示します。

 

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         図1.電流アンプ最新回路図

 

今回は入力バッファをFETに変更、バイアス回路のダイオードを2本に半減、中段にR4を追加、および定数見直しをおこないました。
この回路のアイドリング電流IDLおよび電圧ゲインGvの計算方法は次の通り。

 

IDL =  (VB/R7) * (R5/R9) = (0.65/62) * (47/0.47) = 1.05 (A)    (実測値は1.06A)
※VBはD1のVF=0.65V

 

Gv = (2/(2*R4+R7)) * (R5/R9) * Rsp = (2/(2*47+62)*(47/0.47)*8 = 10.26 (倍)
※Rspはスピーカーインピーダンス8Ω

 

旧回路ではR4の抵抗がなくGNDに直結にしていましたが、今回はゲイン設定自由度を高めるためにR4を追加しました。ところがやってみて気がついたのですが、±の共通電流がR4に流れるため±信号がPP合成され2次ひずみが打ち消されます。
従来のR4=0の状態ではPP合成されずに±が別々に動作しているので、この段では2次ひずみの打ち消しができないのです。
旧回路を図2に示します。ここに示す旧回路は、前回発表のものに対して入力バッファをFETに変更し、一部定数変更をおこないました。

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               図2.旧回路


旧回路では位相補償のコンデンサC1に1800PFを使っていましたが、今回の新回路では820PFできれいに補償されました。終段カレントミラー部の電流比を変えた影響でしょうか。

 

新旧のひずみ率を図3、図4に示します。

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           図3.新回路ひずみ特性

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           図4.旧回路ひずみ特性


全体としてひずみは半分とまではいきませんでしたが1/√2程度には減少しています。
ただ単純にひずみが減少しただけではなく、今回中段のPP合成を追加したためにひずみ成分が変わったようです。
図4の旧回路のひずみ特性は、典型的な真空管A2級シングルアンプの特性とそっくりで、このかたちは2次高調波ひずみ主体の特徴であるといわれています。それにくらべて図3に示す今回の新回路の特性はかなり景色がちがっています。
そこで、2次~5次までの高調波ひずみ成分を測定してみました。図5に示します。

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       図5.新旧ひずみ成分比較


おもしろいことに、新回路の方がトータルのひずみ率が低いのですが、3次ひずみ量が2次ひずみに拮抗しています。旧回路ではほとんど2次ひずみが支配的です。
一般的に2次、4次ひずみなどはそれほど害はなく、奇数次ひずみは不快な音がするといわれています。これは周波数が2倍になると音階がちょうど1オクターブ上がることから、2次,4次ひずみなどは元の音に対して1オクターブ、2オクターブ上の音が混ざるということを意味します。一方奇数倍の周波数は音階上不協和なところに音が出てくることになります。なので、奇数次ひずみは聴感上有害とされています。

さて、一般的にA級シングルアンプは2次ひずみが支配的で3次以降の奇数次ひずみはほとんどないことが特徴です。一方プッシュプルアンプでは2次ひずみが打ち消されるものの、3次ひずみは逆に増加するといわれています。今回もまさにそうなりました。
多少ひずみ率が高くても2次主体ということを重視するか、全体のひずみ率を重視するかという選択肢になります。
今回の新回路もここ数日聴き込んでいますが、いい音で鳴っていますので、ぼくとしては新回路の方を採用したいと思います。

新旧スペックの比較表を表1に示します。

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出力インピーダンスは電流アンプなので高いのですが、高域で激減するのが謎です。
帰還型の電流駆動アンプでもこれと似た傾向が出るのを見たことがあります。

前回アンプの会例会で発表した際に、興味があるので製作してみたいという方がいらっしゃいました。製作上の注意点を書いておきます。
まず、電源ですが24Vのスイッチング電源を二つ、±構成で使用しています。電源の平滑用に4700μF/50Vを別基板に配置しています。スイッチング電源を使用する場合は高周波のスイッチングノイズが電源ラインに乗るので、アンプへの供給ラインにフェライトコアを使ってノイズを除去しています。フェライトコアの入れ方は電源のタイプやレイアウトによって最適な方法が変わるのでカットアンドトライが必要です。スイッチング電源には通常過電流保護がついていますのでアンプには保護回路を付けていません。アナログ電源を使用する場合は保護回路を付けた方がいいかもしれません。電流アンプの場合はミュート時にスピーカー端短絡というやり方ができますので、リレー接点の気持ち悪さからは解放されます。
アイドリングは計算上は1.05A狙いで、A級で20W弱です。上の回路定数で満足な結果にならない場合はR7、R8の62Ωを変えてみてください。この回路では24V電源で最大25W程度、このときのアイドリングは1.25Aです。放熱には余裕を持ってください。
出力オフセット調整は8Ωのダミーロードを接続した状態でVR1によっておこないます。温度が落ち着くまで追調整をして追い込んでやればおおむね0.1V以内に納めることができます。また、図中に示した熱結合は必ずおこなってください。
部品は秋月と若松で入手できます。


無帰還電流駆動パワーアンプという滅多にないアンプです。音もとってもいいです。
ぜひお試しください。

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