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2015年12月31日 (木)

2015/12/29 手作りアンプの会に出品しました

手作りアンプの会 が主催する「お寺大会」に参加してきました。
これは参加者が製作した自慢のアンプを出品して試聴する大会です。
世田谷区妙法寺の場所をお借りして開催されました。


写真1.スピーカーとわたし
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試聴に使用したスピーカー。マリリンモンロー来日時に使用されたものだそうです。JBL3WAYホーン。



写真2.製作したアンプ。シャーシと電源は前回使ったものを流用しています。
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今回ぼくが参加しようと思ったのはまったくの偶然からでした。
11月にふと思い立って、オペアンプを使ったCR型イコライザアンプを作り、その音の生々しさに驚き、それならばパワーアンプも無帰還で組んだ方がいい音がするのではないだろうか?しかもここ何年かのあいだ、スピーカーは電流で駆動する方が再生される音楽の情報密度が高い(あるいは損なわれる情報が少ない)と思われるためずっと電流駆動で音楽を聴いてきたが、それでは無帰還で電流駆動をする方法はあるだろうか?

Photo
図1.電流帰還アンプ原理


従来から使っている電流駆動回路は原理的に上図のとおりです。
スピーカーRLに直列に電流検出抵抗RSを入れて、RSの電流を負帰還すれば、入力信号に比例した電流がスピーカーに流れます。実例としてはスピーカーが8Ω、RSが0.47Ωとすると、1+8/0.47=18倍の電圧ゲインをもつ電流駆動アンプとなります。

さて、これを無帰還でやるにはどうしたらいいか。
狙った電流を流す回路というとすぐに思いつくのはカレントミラー回路です。
カレントミラーはエミッタ抵抗に反比例した電流を出力できるので、電流増幅に使うことができる。それならばカレントミラーをコンプリメンタリで構成してプッシュプル合成すればいいのではないか?

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図2.カレントミラーパワーアンプ試作回路



D1~D8およびQ1,Q2でバイアス電圧を生成しQ3,Q4およびQ5,Q6で構成されるカレントミラーに適切なアイドリング電流を流しつつ、バイアス回路中点に重畳された入力信号をカレントミラーに注入しています。0信号時はQ4,Q6の電流が等しく流れるためスピーカーSPには電流は流れませんが信号があればQ4,Q6の電流の差分としてスピーカーSPに電流を流します。
実際にこの回路は理論通り動作します。しかしながら次の問題があります。

①入力インピーダンスが低いため、信号源のインピーダンスの影響で出力オフセットが大きく変動する
②Q3,Q4およびQ5,Q6は回路上はカレントミラーのように描いてはいるが、まったく別のデバイスであるため直線性がわるくひずみが多いのではないか
③Q4,Q6の一段で出力をまかなうには、Hfeに余裕がない、あるいは不足する

①については入力バッファを一段つければよさそうだ。
②についてはたとえば基準側と同じトランジスタを出力側に複数個パラに使えば電流は確保できるが10個とか100個などという話だとスマートではないし、熱結合をどうするかという問題も出てくる。それなら基準側もろとも大型にしてしまうか…それもいまいちな気がする
③については、Hfeの不足を補うにはダーリントン接続という手段があるが、その場合Vbeが一段増えてしまうため、基準側もダーリントンにするかダイオードを一個入れるかしなくてはならないし、そうすると熱結合が面倒なことになりそうだ。

難問のようにも思えますが、逆に問題点が明確になればそれは解決へ大きく前進したということにもなります。とくに②と③は同時にしかもスマートに解決するのが難しいようにも思えるますが、おもしろいアイデアがひらめきました。

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図3.出品回路



まず①については入力にコンプリメンタリのエミッタフォロワを追加しました。特に問題なし。
問題は②と③。
+側のQ5,Q9,Q11について説明します。まずQ5とQ9はおなじみ2SA970をペア組みしたカレントミラーであり、この二つは接着して熱結合します。出力側のQ9ではスピーカーを駆動することができないので、大出力のパワートランジスタ2SC3519APをコレクタ側にインバーテッドダーリントン接続します。ただし、カレントミラーの電流を決めるR10をQ9と共有します。
こうすることでペア組みされたカレントミラーのクオリティーを保ちつつ、Hfeと出力電流、それに熱結合の問題まで解決できます。Q9はQ11にスピーカーの駆動を代行させ、R10に流れる電流という結果だけを受け取る。Q11はQ5,Q9と熱結合しなくてもよさそうです。
これはあたかもQ9がQ11という「鏡の精」をつかって仕事をしているように見える。なのでGenie of the Mirror(鏡の精)、略してGM回路(PAT PEND.)と呼ぶことにしました。
-側についても同様なので、省略します。

バイアス電圧を生成してるQ3,Q4とD3~D6のうち、Q3,Q4はD3~D6と同じダイオードでもいいのですが、それぞれQ11,Q12と熱結合の接着がしやすいようにTO-92型の2SC2240を選びました。Q4は2SA970にする方が回路図上はかっこいいかもしれません。
ここで生成されるバイアス電圧の、電源変動からの影響を抑えるために、J1,J2のFETで定電流駆動しています。J2側のソース抵抗を500ΩのVRとして出力オフセットの調整を行います。
終段のアイドリング電流はD3,D4とR7(D5,D6とR8)で決まる電流のR6/R10(20/0.47)倍となります。この定数では実測でおよそ1.3Aのアイドリング電流となりかなり強烈で、この設定ではかなり大型のヒートシンクが必要となります。アイドリングを増減させたいときはR7,R8の値を増減させて調整します。

C1は位相補正用のコンデンサで、これがないと数百KHzの超高域でおおきなピークが生じます。ここはこの回路でただ一カ所信号電圧が増幅されるポイントです。

このアンプは電流出力アンプなので、出力に負荷(スピーカー)が接続されていないと動作できません。火入れ、調整の際には必ずダミーロードを接続して行います。

特性の測定結果は次の通り。


Photo_3
図4.測定結果



まず、一番上がひずみ率特性です。最大出力25Wで1%以下、1Wでは0.2%以下です。
次が周波数特性。1W出力時の特性で、-3dBで200KHzを確保しています。
一番下は矩形波の応答です。右の100KHzはかなりなで肩になっています。C1=1800PFをもう少し減らしてもいいかもしれません。


このアンプはフルレンジのスピーカーを直結で鳴らすことを前提に設計しています。
フルレンジスピーカーを通常の電圧駆動で鳴らした場合と、ぼくが行っている電流駆動で鳴らす場合とではどのような違いがあるでしょうか。以前、金田式FETアンプ(2SK134/2SJ49)を電圧/電流駆動切り替えしてオーラトーンの音圧を測定したデータを次に示します。

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図5.電圧駆動


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図6.電流駆動



電圧駆動ではインピーダンスの変化には関係なく信号電圧を出力するため、インピーダンスが上昇する低域と高域では音圧が落ちています。
電流駆動ではインピーダンスが上昇しても、それに関係なく入力に比例した電流を流すようにドライブされるため、インピーダンスが上昇する低域と高域では電圧駆動にくらべて音圧が上がっています。
これを不自然だと指摘する人もいますが、ぼくの考えでは、この特性を見る限り、高域は不自然に持ち上がっているというよりは改善してるというレベルに見えるし、低域もオーラトーン程度の小型スピーカーでは増強されて比較的小音量で聴く場合などは特に気持ちよく低域が聞こえます。

今回製作したこのアンプでは、ボーカルに強いオーラトーンと、楽器の鳴りがいいSX-100を直列に接続して鳴らしていますが、不自然さはなく情報量の多さを感じさせるとても生き生きとした音で鳴っています。


さて、アンプが完成してその音を聴きながら今回作ったこのアンプと同じ方式のアンプが世の中にあるのかどうかを調べていたところ、偶然「お寺大会」の案内ページにたどり着きました。しかも今回のお題は「無帰還半導体アンプ」。なんという偶然でしょうか。
そういうわけで今回、お寺大会に参加させていただき、はじめて自室以外の場所で今回製作した電流駆動アンプを鳴らす機会に恵まれました。

ただ、大会の条件としてJBLの3WAYスピーカーで試聴するということだったので、電流アンプの前提であるネットワークなしのフルレンジという条件は満たされません。そもそもぼくはマルチウェイのスピーカーは使ったことがないのです。今回製作した電流アンプにネットワーク付き3WAYスピーカーをつないだときにどんな動作をするのか、経験がないので見当がつきません。そこで、部品箱にあった0.34mHのコイルと10uFのケミコンのBP接続5uFで簡易的にネットワークを組み、フルレンジとツイーターを接続して鳴らしてみました。すると高域がかなり強くガチャガチャした音で、聴くに耐えない音でした。どうしてでしょうか。
0.34mHと5uFをつかって2WAYのネットワークを組むと、アンプの出力インピーダンスが20Ωのときにクロスオーバーが12KHzで-3dBとなり適正です。

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図7.ネットワーク回路



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図8.出力インピーダンス20Ω時のクロスオーバー



出力インピーダンスが20Ωというと、真空管アンプが近いのではないでしょうか。
上図の通り、きれいな特性が出ます。一方、一般的な電圧駆動の半導体アンプでは出力インピーダンスが1Ω以下から高くても数Ωであり、この場合はクロスオーバーが-3dBよりも深くなるようです。
それでは今回製作した電流駆動アンプの出力インピーダンスはどれくらいでしょうか。LTSpiceでシミュレーションしてみると500Ω前後だということがわかりました。半導体アンプとも真空管アンプともかなりかけ離れた値です。では、同じネットワークでスピーカーを接続した場合どんな特性になるでしょうか。


Zo500
図9.出力インピーダンス500Ω時のクロスオーバー



なんとクロスオーバーで4dB持ち上がってしまっています。-3dBが適正なのでその差はなんと7dB!
ガチャガチャしたひどい音!という印象とシミュレーション特性が一致しました。


おそらくお寺大会でも同じような結果になるだろうとは予想していましたが、はたして予想通りでした(^-^;
やっぱりフルレンジを鳴らすチャンスがほしいですね。
ただ、今回収獲だったのはこのアンプでネットワーク付きのスピーカーを接続しても安定動作することがわかったということと、ネットワーク付きのマルチウェイを電流アンプで適切に鳴らすにはどうしたらいいのかというあたらしいテーマが出てきたことです。一時期金田氏がやっていた、電圧と電流をミックスして帰還をかけるという方式は、言い換えれば出力インピーダンスを可変させているという見方もできるので、ひょっとしたらそのあたりにヒントがあるのかもしれませんね。


追記
・入力バッファは、FETのコンプリメンタリにするとさらに入力インピーダンスが上がり、信号源インピーダンスの影響が少なくなるとともに、ひずみ率が0.1%程度改善するようです。ただJFETのコンプリメンタリは入手性がわるいので今回の回路としました。
・入力をダイヤモンドバッファにするということも検討しましたが、コンプリメンタリトランジスタの特性がぴったり合っていないとベース電流の差分が入力抵抗や信号源に流れてオフセットが変動する原因となります。ベース電流差分調整用のVRを付けて、入力オープン時とGND短絡時のオフセットが同じになるように調整すれば可能なのですが、部品点数と調整箇所が増えるため、今回は見送りました。
・電源はイータのスイッチング電源BNC-24SA-U(24V3.5A)を2台使用して±24Vとしています。これを4700μと0.1μのフィルムで平滑したあとフェライトコアを通して左右のアンプ基板に送り、アンプ基板上では47μと0.1μで平滑化しています。

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